17 - ジイド


ミミックの長、アンドレ・ジイドも順調に回復していった。

然るべき機関で然るべき処罰を受け、祖国に戻ることを特務課の長官、種田山頭火と約束したらしい。

彼を撃ち抜いた時のことを今でも鮮明に思い出せる。
身体中からアドレナリンが分泌し、興奮で手が震えていた。
銃の魅力に取り憑かれそうになった。

彼ときちんと話をするのは今回が初めてだった。
何から言えばいいのか分からなかった。
それは彼も同じだった。

「週末、国に帰ることになった」
「そっか」
「結局、俺の……俺たちの居場所はあの国にしかなかったわけだ。滑稽だと思うか?」

それについては答えなかった。

「……向こうについたら、絵はがきを送ってくれないかい?どんな絵でも構わないから」
「お前も来るか、羽柴斎。俺が生まれ育った国を、戦場を一緒に見てみないか?」

ジイドの声は、まるで神に祈る宣教師のような優しさを含んでいた。
きっと一人で故郷に帰るのが恐ろしいのだ。
直感的にそう思った。

「いや、止めておくよ。今この国を出るのは色々とマズイだろうから。それに……」
「サクノスケか?」
「まぁね。他にも色んな人がいる。だから逃げるような真似はしたくない。だから、あなたも」
「あぁ。絵はがきを送ろう。現地の子供たちの写真や、俺が育った街の写真も一緒に」
「楽しみにしてる。でも、いつか必ず、君の国へ行くよ。そして、君に会いに行く。約束しよう」
「守れない約束は」
「しない主義なんだ」

ここで今日初めて彼の笑顔を見た。
炎のように熱を孕んだ赤い目は、夕日のように輝いていた。

この男はきっと根が真面目で、心優しい人間なのだろう。
彼の笑顔はそう思わせるような魅力があった。

私はジイドに一つ詩を送った。

「これはお前の仲間だと人は言い
四季咲きの薔薇をそなえるが、誰ひとり確信はない。かならず私を大地に葬ってくれ、そこなら私はよみがえる見込みがある。」

まるで自分が墓堀りにでもなったような気がした。
ジイドはそれを見抜いたのか少し笑って、
「ロッド・スチュワートが墓堀りだったのを知っているか?」と言った。
そんな質問にどう答えたらいい?

私はジイドの白く長い髪に敬愛を示すキスを一つ送った。
彼は先程と同じような笑みを浮かべてみせた。
何も保証しない笑みを。

私は病室を出た。





ロッド・スチュワート
イギリスのミュージシャン
売れるまでは、墓掘りの他にも色んなバイトをしていたそうです。

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