18 - インターミッション


 ポートマフィアを相手にした仕事を一つ片付けた。彼らとの取引は、いつも以上に気を張らなければならなかった。
 森鴎外という男は、私が思っていたような男と少し違っていた。合理的かつ計画的な非人道を極める男だが、彼は彼で組織の奴隷として裏社会に縛り付けられた、憐れな囚人の一人にすぎなかった。なぜ、医者を辞めて人の命を奪う側に回ったのか。そんな質問をした日には、私の命はなくなっているだろう。
 この街には踏み込んでいいラインとそうでないラインがある。森鴎外は、そのラインをモザイクで隠し、その向こう側でチェスターフィールドのソファに腰かけているような男だ。
 ヨコハマの黒い染みの8割は、間接的に私が作り出している。007の武器開発課の課長にでもなった気分だった。パジャマ姿のままコーヒーカップを片手に世界戦争を起こせる。ボンドがいなくても。大衆映画としては、最悪の出来だなと思った。
 今夜は大きな月が出ていた。スターリンが幼少の頃に綴った詩を思い浮かべた。

よく心に刻んでおいてくれ
誰が虐げられ
灰になったのかを
暗い空に輝き
穏やかな光で祖国を照らせ
私は心を震わせながら
明るい月に誓う

 何故だか自分でも分からないが、ツキ(幸運)を信じるか、と聞かれたときのジャン・コクトーを思い出した。

「もちろん信じるとも。大嫌いなヤツが成功を収めたとき、信じないでどうやって説明するかね?」

 馬鹿馬鹿しい。そう思いながらルパンの重々しいドアを開けた。


- 18 -

*前次#


救済 トップページへ