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 気難しい顔はセドリックに移る。けれど、ノエルは笑うのをやめようとはしない。いつものことだ。セドリックもそれ以上何も言わない。
 セドリックにとってノエルは大河を流れる水のようなものでコントロールすることができない。両手をひろげてすくいとったところで、限りなく無限に近い残りの水がゆっくりと下っていき、わずかにあいた穴だってほころびも見せず完璧に隠してしまう。
 だからノエルがおかしいと思うなら、笑うにまかせておくしかない。

「ま、来年で死んだからといって、その人生が八十まで生きた人生より不幸かは誰にもわかりませんよ。空を見たまえ、少年」

 再び横になったノエルが変な作り声をして空を指差す。

「誰の真似?」
「少年よ大志を抱けのクラーク博士です」
「あぁ、マグルの。なんでクラーク博士の声知ってるのさ」
「細かいことを指摘されては興ざめですね。ほら、この雲ひとつない青空をごらんなさい」
「雲、少し残ってるけど」
「だから、細かいことはいいのです。このヤケクソみたいな、とても頭の悪そうな青空を見ているとなんだか心が広くなった気になりませんか?」

 そんなことはセドリックも知っている。だから学生の財布には厳しい、マグルの移動手段(電車、バス、タクシーなど様々)をノエルの分まで払ってここまで来ているのだ。使命とか責任とかそんな重たいものを少しの間だけなかったことにするために。

「わからないでもないよ」
「ですよね。暴力的な気分になりますよね。隣にいる誰かを引っ掻いて、複々線の傷をつけてあげたくなりますよね」


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