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 そこまで自分はノエルのことを想えているのだろうか。視界が涙でゆがむと、余計に水面は近く見えた。手を伸ばせば届きそうだ。前には森や空が広がっているというのに自分は下ばかり見ている。
 今の自分はノエルとシンクロしている。セドリックの心を得体の知れない確信が支配する。自分は死に触れている。ここには人の死があふれている。無意識のうちに体が浮き上がっていく。体が揺らぐ。ぐらり、ぐらりと。

「もう充分すぎるくらいには堪能したでしょう。これ以上、人の死に触れているとほんとに死んでしまいますよ」

 聞いたことのある声が鼓膜を震わし音として伝えてくる。

「ノエル…?」
「そうに決まってるじゃないですか。もう私のことを忘れたしまいましたか?薄情な人ですね。忘れないように体に刻みつけてあげましょうか」
「そういう問題じゃないよ!ノエル、君は死んだんだろう?」
「はい。この世にはいません。今は静かに向こう側にいますよ。残り少ない魔力で今ここにいるんです。時間もあまりないですし、手短に話しますね。私は忘れ物をしてしまいました。ですから返してもらいたいんですよ。忘れ物を。近いうちにお迎えにあがりますから」

 セドリックはノエルの声がこんなにも冷たいものだったのだと初めて気づいた。

「きっと恐ろしいと感じているでしょうね。でも、無駄ですよ。わたしは魔女ですから。魔女に関わった人は誰しも不幸になるのですから。あなたたちはとっくの昔に呪われているんですよ。魔女が呪うのではありません。魔女そのものが呪いなのです。その呪いに近づいたらどうなるか、わかりますよね。では、また。近いうちに。あ、それから。今晩の最終課題がんばってください」

 言いたいことだけ言ってノエルは消えてしまった。ただ、呪いがやってくることだけを予言して。これから何が起こるのか。誰にも聞いてみることができない。


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