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「やっぱり手をつなぐだけの関係が一番プラトニックでいいですね。肉が削げ落ちてよぼよぼになっても、手を握るくらいならできますし」
「そんなしわくちゃな手同士で楽しいかい?」
「年寄りには年寄りの味があります」
「ふうん」
「今、死にたいですね」
「もう死んでるし」
「そうですね、頑張れ。セドリック・ディゴリー」

 不意にノエルが言った。あいた手を握りこぶしにして空にパンチを繰り出して。

「チョウを守りなさい。魔女の妨害なんかに負けないで下さい。そしたら二人は幸せになれます」
「ノエルはやっぱりいい人だね」

 セドリックは苦笑した。

「この世界にいい魔女なんていませんよ。すべての魔女は利己的で、破滅的です。すべての人を不幸にします。だからわたしの周りの人はすべて不幸になるのです」
「そういうことにしておく。ねえ、これはさ、想像でしかないんだけど。ノエルは自殺したんじゃないよね。朝の湖がきれいだから引っ張られて落ちたんだ」

 ノエルが死んだ日、空はよく晴れていた。この天文台から見る湖の様子は泣きたくなるほど美しかっただろう。いつもの時間に大広間へ行けないと思ったノエルは天文台からその景色を見ようとして引き込まれた。証拠なんてない。計画的に魔女はみずから生贄にささげたのかもしれないし、セドリックがノエルを死においやったのかもしれない。でも、少なくともノエルは自殺したとは一度も言っていない。

「そういうことにしておきましょう。わたしはただ、ディゴリーがほしかったんです」
「名前で、セドリックって呼んでよ」
「セドリック」

 ノエルの声がセドリックの頭に刻まれる。きっと、ずっと前からこうして名前を呼んで欲しかったのだろう。

「今、死にたいですね」

 また、ノエルはセドリックの手を握る。

「もう、死ねないでしょ」
「ええ。だから、今手を握ったのです」

 この手は、一人としか、つなげないんだ。

「僕、チョウと別れることにするよ。きっとこのままいっても上手くいかないだろうから。それに、やっぱり僕はノエルが好きなんだ」
「そうですか。嬉しいですね。これでわたしはあなたを独り占めできますね」
「ノエルらしいやり方だよね。チョウがかわいそうだ」
「どうでもいいじゃないですか。チョウのことなんて。それに」

 レシピの隠し味を教えるようにノエルは付け加えた。

「わたしは魔女ですから」


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