------------



キーンコーンカーンコーン・・



「いい加減泣き止みなさいよ、あれが現実よ」
「うぐっ・・・ひっく、ごめっ、うぅ」

梅ちゃんは口調とは裏腹に優しく背中を撫でていていてくれている。失恋したという現実を理解し始めていた。授業をサボらせてしまって申し訳ない、でも今は1人ではどうしようもない。

「少し他の女と仲良さそうにしてただけじゃない、なんでそんな泣いてんのよ」
「だって・・・ひっく、あれはどうみても・・うぅうわあぁあん」
「まだ付き合ってるとか限らないでしょ、あのブスに確認しなさいよ!てか付き合ってるからなによ、あんたの気持ちってそんなもんなわけ?」

そんなことない、物心ついたときから炭治郎が大好きでこの気持ちだけは誰にも負けないと豪語していた。今更お似合いの女の人が出てきたからなんだ、とも一瞬だけ思ったがやはりあれは物凄くショックな光景だった。私が泣き止まないでいると少し離れたところで梅ちゃんが何処かに電話して戻ってくる。
「今お兄ちゃんに迎えに来るように連絡したからあんた早退しなさい。そんで色々頼んでおいたから名前も覚悟決めな」
「ひっく・・え、なんで妓夫太郎さん?」
「今のままで引き下がるとか許さないから。少しでも綺麗になってきなさい!」





「はあ、なんで俺が駆り出されなきゃならねぇんだって思うがなあ、梅の頼みだからなあ、しょうがねぇなあ」
「あの・・!妓夫太郎さん、本当すいません!」
「失恋かぁ、許せねえよなあ、皆殺しにしてやるよ」
「え!そっち!?や、やめてください!」
「冗談だよ、行くぞぉ」

梅ちゃんと行く行かないで一悶着あったが、私の為にここまで動いてくれたことを無下に出来ないと思い早退することにした。正直に言えば気を緩めたら泣いてしまいそうな状態ではあるのでこの配慮は有難かったかもしれない
投げられたヘルメットをキャッチして被るとバイク後ろに股がるように言われる、炭治郎以外の男の人とこんな近い距離になったことがないからどこを掴めばいいのかわからずとりあえず自分の座席の所をぎゅっと掴む。
「そんなんじゃ振り落とされるぞ」
サッと血の気が引きすぐに腰に手を回す
「ひひっ!行くぞぉ」
「お、お願いします!!」

梅ちゃんはバイトとしてたまにモデルみたいな仕事をしている。
その関係の美容室、マツエクをしながらネイル、軽いエステをしパーソナルカラーの確認後には洋服・化粧品のサンプル品や未使用品を沢山頂いてしまった。全て梅ちゃんの紹介料金として格安でやってもらえたし場所によっては謝花兄妹によろしくねとタダで頂いてしまった。こんなに一緒にいるのに知らなかった一面に梅ちゃん何者なの・・・と思ったのと同時に梅ちゃんの仕事をマネジメントしている妓夫太郎さんのコネクションもあったりして謝花兄妹にはこの先頭が上がらないなと感謝の気持ちでいっぱいだ。
そんなこんなであっとゆうまに時間が過ぎて、私は自分の変貌ぶりに吃驚する間もなく夜になってしまった。
「見違えたなあ、まあ、梅のプロデュースだから当たり前か」
「妓夫太郎さん、こんな時間までありがとう御座います、自分じゃないみたい!凄く嬉しいです。シンデレラになった気分!」
「飯」
「ん?なんて?」
「飯作れよぉ、腹減った」
「私が作るんですか?お礼にどこかでご馳走しますよ!」
「外食は飽きた、俺も梅も料理出来ねぇからなあ」
「そういうことなら・・・簡単なもので良ければうちで作りますね」
「梅も呼ぶかぁ」
「そうですね、梅ちゃんにもお礼したいですし!」


名前の両親は仕事でほとんど家を留守にしている。そのおかげで名前はほとんどの時間を竈門家で過ごしたし竈門ファミリーのおかげもあってあんまり寂しいと感じることもなかった。
炭治郎がたまに厳しいのもそんな両親の留守が多い彼女を想ってとっている行動なのを名前もよくわかっているし感謝もしている。

ブロロロロと音を立てて家に到着すると玄関の前に人影が見えた、私が見間違えるはずがない、あれは炭治郎だ。私の姿を確認するや否や妓夫太郎さんには目もくれずに私の方にやってくる、顔には安堵の表情を浮かべている。
「名前!!良かった、心配したんだぞ!早退したって聞いて、連絡もとれないし」
今日は会いたくなかった、けどどうしようもなく好きで炭治郎が私のことだけを心配してくれていたのだと思うとあれだけ苦しかった胸が一気に軽くなるのを感じた。
ヘルメットを取り炭治郎の方にに顔を向けると途端に炭治郎の顔色が変わる
「たんじ・・」
「名前、体調が悪くて早退したっていうのは嘘だったのか?」
「・・・えっと」
「それにその人は誰なんだ。」
炭治郎は怒ると怖い。今までで怒ったであろう事は数回しか見たこと無いがその時と同じ顔をしている。頭に血筋が入り覇気が出ている。これは相当まずい状況だ。
「あのね、炭治郎、今日ちょっと落ち込む事があって、それで、その・・・この人は妓夫太郎さんって言ってね、色々連れてってくれて」
何も嘘は言ってない、嘘じゃないのは炭治郎だって匂いでわかるはずだ。なのに私の説明を聞いて炭治郎の眉間の皺はさらに深くなった。
「そうか、名前がどうもお世話になりました。彼女を元気付けるのは俺の役目なのでもう大丈夫です。」
「あのね、炭治郎!妓夫太郎さんは梅ちゃんのお兄さんでね、」
「はあ?おい、虫けら。今からこいつの家で飯食うんだよ、邪魔すんなよなあ」
は、話がややこしくなった!炭治郎は純粋に何処の誰かも知れない人に私が連れまわされたとでも思っているのだろう説明を入れようにも炭治郎と妓夫太郎さんの睨み合いになってしまった。
「女の子の家に恋人でもない男が上がるのはおかしいだろう!」
「お前こそ家の前まできて、家入る気満々だろぉ」
「俺は!名前の幼馴染だからいいんだ!」
「くくっ」
妓夫太郎さんが笑い出す、炭治郎は完全に怒っているが妓夫太郎さんはただお腹が空いてイラついているだけのようだ。なので冷静さから言えば妓夫太郎さんが上のように見えた。
跨っていたバイクを降り炭治郎を見下すように前に立つ
「幼馴染、ねぇ。幼馴染にどんな価値があるんだか知らねぇが、男女の関係に口出す権利が無いのは明白だなあ」
「・・な!」
「俺らは中に入るけどなあ、聞き耳立てんなよ」
話の流れから妓夫太郎さんの言っている意味を理解してしまい途端に顔が赤くなる。冗談だとわかるが今炭治郎に余計な誤解を与えたくない。頑張るって決めたばかりなのに!
妓夫太郎さんに手首を引っ張られた瞬間に肩を引き寄せられた、炭治郎にだ。
「名前は、俺のことが好きなんだ。俺は鼻が効くから匂いでわかる!名前が君に靡く事はない!」

・・・へ?今なんて言った・・?
名前は俺のことが好きなんだって言った?
炭治郎は私の想いに気づいていたっていうこと?
「夕飯はすまないが、名前じゃなく俺の家で食べてほしい。」
「・・・・興醒めだなあ、帰る」
妓夫太郎は途端に無表情になりまたバイクに跨ってた。名前は急な展開についていけずほおけていたが妓夫太郎が帰ってしまうことに気づき急いで声をかけた。
「妓夫太郎さん!!夕飯ごめんなさい、今日はありがとうございました!お礼はまた後でさせてください!」
エンジン音に掻き消されないように大きな声で声をかけると妓夫太郎さんが振り向いてくれた
「いらねえ、まっ、これからも梅と仲良くしてくれ」
「それはもちろん!」
「あとそこの虫けらをコロシてぇときは言えなあ」
「!?」
言い逃げだ。言い逃げ!!妓夫太郎さんには今日大変お世話になったけどこの状況で炭治郎と2人で残されてしまった。確かにいつも異性に近づきすぎると注意されるがこんなに怒った炭治郎となにを話せばいいのか・・・。

「・・・名前、話したいことがあるんだ」
「わ、わかった。とりあえず家にあがってほしい」
「だけど、俺は・・・」
炭治郎が言い淀む。先程自分で言ってしまったことを気にしているのだろう、さっきまでの怒りは感じられず申し訳無さそうにしている。

「炭治郎は幼馴染だから良いんでしょ、中入ろう。」
「ありがとう、じゃあお邪魔するよ」
私の幼馴染という言葉に目を見開き顔を綻ばせ、いつもの彼の姿に戻ったように感じる。
喧嘩別れなんて絶対に嫌だし、梅ちゃんの言う通り覚悟を決めなきゃいけないときがきたんだ。












春うらぶれて溶ける魔法 2







.