「なんですかこれ、ほとんど修繕費じゃないですか」
手始めに費用の打ち込みという比較的簡単な仕事を教えてもらったのだがその内容に驚愕してしまい心の声が口から出てしまうと先輩が困った顔をする、この学校は先生がクセ者で事務員の人気が無かったわけじゃなく生徒たちが不良か治安が悪いのが原因だったのか。

「結構な金額ですよねこれ、その・・・警察とかには相談してるんですか?」
「それね、先生達が壊したものなのよぉ」
「え?」
「ここの先生達ね、授業に熱心で授業中に色々壊しちゃったり爆発させちゃったりするのよね。日常茶飯事だからあんまり気にしないでね」
「日常茶飯事・・・」
「だからね先生達にこまめに発注してもらうの、今までは不死川先生が大変だろうからって代わりにみんなの分纏めて発注して仕分けまでしてくれてたんだけど事務員二人になったからこっちでやろうと思って相談してたの」

先日挨拶の際に先輩が不死川先生と話してたのはその用事だったらしい。あの不死川先生がこんな細かくて面倒な仕事を引き受けるとは人は見かけによらないとは能く言うものだ。領収書や納品書もよく整理されてるしこれは見習わなきゃいけないな。


昇降口横にある事務室はお客様待合室にもなっているので職員室からは少し離れている。新米にして先生達からの発注と納品書を纏める作業を受け持つなど恐れ多いが任された仕事はしっかりこなそう。今の時間不死川先生は授業が無いらしく諸々の確認に行こうと職員室に向かう途中、一階の一年生の教室の近くを通ると授業中であろうあの人の声が耳に入ってきた

「準備が出来たら騎馬戦を始める!歴史は身体で覚えよう!」
騎馬戦?自分の耳を疑い声の聞こえた教室を覗き見ると煉獄全員が指揮をとりながら教室で今まさに騎馬戦を始めようとしている。ご丁寧に机と椅子はすでに端に寄せてあり、生徒たちはみんな楽しそうにしていることに驚いた。

「そちらのちぃむは猪頭少年が大将か!徳川家康になりきれ!さあ、それぞれ首を討ち取る武将を決めるといい!」
「子分どもぉ!!行くぞぉぉ!!」

生徒たちの楽しそうな姿に思わず笑みが漏れる、なるほどキメツ学園の先生達は常識に捕われないのだ。
仕事の途中だったので早々に立ち去ろうとしたら指揮を取っている煉獄先生と目があった、目があったと思った瞬間には教室のドアを開けられていて声をかけられて腕を掴まれ引き寄せられた。ち…近い!あれだけ宇髄先生に女性にみだりに触れるものではとか言っていたのに自分はお構い無しのようだ

「苗字さんも一緒に騎馬戦しよう!」
「え!?煉獄先生、私今仕事中でして!」
「ハッハッハッ!心配はいらない!これも仕事だ!」
「煉獄先生ぃ…!」



・・・





「騎馬戦してただァ?」
「本当にすみませんでした。」

あのままちゃっかり騎馬戦に参加してしまいなんと煉獄先生のお姫様抱っこまで経験してしまったのだ。戦国時代の姫のように扱われ最初こそ恥ずかしくて周りを見れなかったがあまりにも白熱した騎馬戦に段々と自分も活躍しなくては、と心持ちが変わってしまい結局のところ最後まで騎馬戦を楽しんでしまい不死川先生との約束の時間に大幅に遅れてまるで蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっている。

「時間は守れェ」

私が青い顔をしてると丸めた冊子でポスっと軽く叩かれて呆れた顔をされたがそれ以上はなにも言われずそのまま引き継ぎ作業が始まった。不死川先生はなんというか、優しい人だと思う。

「苗字さん、騎馬戦楽しかったな!」

引き継ぎを受けていると授業の片付けを終えたであろう煉獄先生が職員室に戻ってきたようで後ろから話しかけられた。お姫様抱っこを思い出してしまい自然と顔が赤くなるのがわかる。

「煉獄てめぇ、他人巻き込むんじゃねぇよ」
「うむ、承知した!ところで不死川とは何用だ?」
「話聞けェ…」

不死川先生はまた呆れた顔をしたが慣れているのかそれ以上何か言うことは無かったし最終的には楽しんでしまった私の過失でもあることはわかっているのであろう。

「不死川先生から先生達用の備品発注や修繕依頼の引き継ぎをうけているんです。これから私が受け持つことになったので」
「そうか、これからは苗字さんに発注を頼めばいいわけだな」
「はい、不死川先生のようにスムーズに出来るように頑張ります」
「関心関心!誰でも最初は不慣れなものだ、努力すれば確実に腕が研磨されるだろう」
「ありがとうございます」

頭を撫でられてまた懐かしいようなそんな気持ちになる。なんでだろう、凄く心地がいい。

「邪魔したな、続けるといい」

心がほかほかしたまま、不死川先生から引き継ぎを受ける。約束の時間に遅刻したのだから邪念を払い引き継ぎに集中しなければと思い、心に引っかかる“懐かしく心地いい”気持ちの行方を探るのを辞めた。








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痺莫