「茶でいいか!」
「はい、ありがとうございます。あの、煉獄先生のお母様はなんで固まっていたんでしょうか・・・やっぱり急な来客だから迷惑でしたよね」
「うむ、母上は思慮深いが正直な人だ。もし本当に迷惑だと思ったらその場で申し出るはず、安心してくれ!」
「なら、良いんですけど・・・」

どうしてか、私も何かが引っかかる。
煉獄先生に初めて会ったときもそうだ、妙に懐かしく感じたし
お母様に会ったときだって美人だと先に思ったけど会えた事に感動したというか・・・
ここ最近感じる違和感に頭を悩ませていると煉獄先生の家族写真が目に入った

「あれ、もしかしてこの子が千寿郎くんですか?」
「そうだ!キメツ学園の中等部に通っているぞ、一年生だ」
「ちっちゃい煉獄先生みたい、可愛い!」

振り返ると目を見開いている煉獄先生とバッチリ目があった
普段はどこを見てるかわからないときが多いが今絶対目があったと思う
何故か目線は逸らされてしまったが、どこか照れてるようにも見える。可愛いって言ったから照れてるのかな・・・見た目に似合わず本当に可愛い!

「夕餉の時に会えるだろう、それよりも我が家は皆煉獄だ。俺のことは杏寿郎と呼んでくれないか」
「あ、そうですよね!えっと、きょ・・・杏寿郎さん?」
記憶がフラッシュバックする
『杏寿郎さん!』
今のは何だったのだろう一瞬の出来事だったが自分が誰かと重なった気がした。

「うむ!では俺も名前と呼ぼう!これでお互い気にすることはないな、もう安心だ!」
ップ、と笑うと杏寿郎さんも笑ってくれる。真っ直ぐで正直なこの人の側はなんて心地いいんだろう、きっと好きにならない道なんて無かったな。
それからは他愛もない話をしながら時間を過ごしているとあっとゆうまにご飯の時間になったようだ。

・・コンコン
「兄上、夕餉の準備整いました。」
「うむ、すぐ向かう!」
気をつかって扉を開けないでくれたであろう声の主に構わず杏寿郎さんは扉を勢いよく開けた、は・・早い!
「名前、紹介する!弟の千寿郎だ!」
「初めまして、千寿郎と申します。」

行儀よく正座をし頭を下げてくれる千寿郎くんに思わずこちらも正座をしてしまう
写真で見たまんまの千寿郎くんは凄く可愛くて杏寿郎さんに姿形こそ似ていても違った性質に思わず笑みが漏れる、煉獄家は楽しい事がいっぱいだなあ。

「初めまして、苗字名前と申します。杏寿郎さんの勤めている学校で事務員をさせて頂いております、今日はご馳走になります。」
「丁寧にありがとうございます・・!あの、頭を上げて下さい!」
「ふふっ、!杏寿郎さん、千寿郎くんとっても可愛いです!」
「うむ!それは良かった!」







「うまい!うまい!」
あっとゆうまに目の前の食事を平らげていくのを唖然として見てしまう。
目の前に杏寿郎さんのお父様、お母様と弟の千寿郎くんが居て緊張してしまうと思ったがそれよりも杏寿郎さんの食欲に吃驚だ。大きい身体だから沢山食べるのかなと容易く想像出来たがそれ以上、私が一口食べるごとに一人前は平らげているだろう

「・・・・うまい!」
「杏寿郎、名前さんが驚いています。」
「うむ!名前も沢山食べるといい!食事は大切だぞ」

勝手に嫉妬をし落ち込んでいただけだったが杏寿郎さんのお家に来てからずっと楽しいことばかりでもうすっかり元気になっている、でも・・そうか、杏寿郎さんがお家に誘ってくれたのは私が元気が無かったからだ。そういう真っ直ぐな人だった。
楽しい食事も終わってしまい、食後に千寿郎くんの作った美味しい薩摩芋菓子を頂いているが寂しい気持ちになってしまう。・・・私には家族が居ない、父は物心ついたときから居ないし母は長い闘病の末亡くなってしまったばかりだ。暖かい煉獄家にいると家に帰るのが少し憂鬱になる、でもきっとこれきり。今日は私を心配し連れてきてくれたんだ。

「名前さんさえ良ければまた遊びにいらして下さいね」
「え、いいんですか?」
「杏寿郎が女性を家に連れてきたのは貴女が初めてなんです、それが名前さんでたまらなく嬉しいのです」

杏寿郎さんがお手洗いに行っている間にお母様から衝撃の言葉をもらった。てっきりこうやって元気のない友人や生徒とかを家に連れてってご飯を食べさせて居るのかと思っていたから
・・・私が初めて・・・。

「あの、ありがとうございます。お言葉に甘えてまた来てもいいですか?」
「・・・いつか、貴女に御礼をさせて頂きたかったのです。食事だけでは足りません。」
「えと、私と何処かで会ったことがあるんですか・・・?それか人違いじゃ・・・」

不思議な言い回しに首をかしげていると、杏寿郎さんが戻ってきた
「む!どうかしましたか、母上」
「何もありませんよ。杏寿郎、また名前さんを連れてくるのです、わかりましたか?」
「勿論そのつもりだ!今日は遅くなる前に送っていこう、ご家族が心配する」
「あ、杏寿郎さん。私には、その、家族はもう居なくてですね、でもご迷惑になってしまうのそろそろ帰ります」

先程の話は深堀り出来なかったがまた来ていいと言ってくれたのでその時でいいだろう
そう考えていると何か考えこんでいる杏寿郎さんと目があった

「・・・?」
「名前!今日は泊まっていくといい!」
「ええ!?いや!それは、大丈夫です!」
「心配しなくてもいい、部屋なら沢山ある!」
「そういう問題じゃありません!これ以上ご迷惑かけられません!」
「いいではありませんか、是非泊まっていって下さいな」





・・・






私は今煉獄家の客間の布団にいる。
あの後一悶着あったが、決めては杏寿郎さんのお父様の「泊まってけ、瑠火もそう言ってるだろ」だった。押しの強い家族だけど今はそれが凄く有難かった。
正直に帰りたくなくない、寂しいと思っていたしとにかく居心地が良かったから

「まだ、起きているか?」
「あ、はい!起きてますよ」
「入ってもいいか?」

どうぞ、と言うとゆっくりと襖が開く。昼間のスピードを考えると違う人みたいだ。
寝間着ではあるがいつもと変わらない風貌の杏寿郎さん、だけど時間帯の所為もあるが無性に男を感じてしまいドキドキしてしまう。

「すまない、寝るところだったか」
「いいえ、目を瞑っていただけで寝れないでいました」
「うむ!枕が替わると寝れないとよく聞く、今度は枕も持ってくるといい!」

今度があるのか、杏寿郎さんやお母様は会話の節々に自然に次を含ませていることに気付いてるのかな。この間会ったばかりなのにこんなに急激に近くなってしまってもう随分と前から杏寿郎さんが好きだったような感覚になる。

「言い難いことなら、すまない・・・名前は家族が居ないのか」
「はい、父のことはほとんど知りません。物心ついたときから居ませんでした。母も私が中学生だった頃から闘病してて二年前に」
「そうか、それは辛かっただろう。もう少し早く出会えてれば支えてあげられたのだが」
「杏寿郎さんは本当にお優しいですよね、今は職場も変わってこうして良くしていただいて毎日幸せですよ。」
「それでも俺は、君に寂しい思いをもうさせたくなった」
「・・・?もう、とは」
「む・・?」
”もう”と杏寿郎さんは言ったが本人も何故そう言ったか理解出来てないようだった、この違和感はなんだろう。底知れぬ違和感を感じているがお互いが理解出来ていない状態ではあったのでこの話はこれで終わってしまった。

「今日で君の事がなおいっそう知りたくなった、教えてくれないか?」
「私のことですか?そんな面白い話無いですよ!」
「それでも俺は名前のことが知りたい。どんな食べ物が好きか、色や景色、何を好むのか教えてほしい」

杏寿郎さんは普段とても声が大きいが今はとても落ち着いてお話してくれているのでその耳障りの良い声色にとても落ちついてしまい、気づいたら寝てしまっていた。


翌朝目が醒めた時、先に起き名前を見つめている杏寿郎と目が合い驚いた彼女の悲鳴が家中に響き渡ったのは言うまでも無い。






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痺莫