あの日から何度か杏寿郎さんの顧問している部活動がない日に家にお邪魔させていただいている。
次は枕をと言ってもらったが泊まりになったのは最初の日だけで、煉獄家の皆さんは多少強引ではあるが私のことを心配してご飯を食べさせてくれているんだということがわかる。
そして杏寿郎さんは決して私のことをを色目で見ない、実に紳士的だし一緒に寝てしまった日も私の寝間着はひとつも崩れておらず触れてる様子も無かった。
恋をしている身としては多少の寂しさを感じてしまうが、誠実な彼の態度にますます惹かれていく。恋愛経験がまるでないので距離の詰め方もわからず、男女問わず人気のある”煉獄先生”に対し恋人になりたいまで考えが及んでいなかった。


「名前!今日の夕餉は薩摩芋御飯だそうだ!楽しみだな!」
「煉獄先生、こんにちは。夕飯の献立、千寿郎くんから聞いたんですか?」
「うむ!先程千寿郎に会ってだな!是非君にも食べてほしいと言っていたぞ!」
「嬉しいです!千寿郎くんの薩摩芋ごはん楽しみだなあ」
「むう、涎が垂れているぞ!」
「え!」
「冗談だ!はっはっは!」

職員室で涎を垂らしてしまっては恥ずかしいと思って急いで口を拭うと冗談だと笑われてしまった、杏寿郎さんも冗談とか言うんだ。
杏寿郎さんは結構明け透けで、私が煉獄家でご飯を食べていることも人前で普通に話すし私のことも気にせず名前で呼ぶ。一方で私は学校では変わらず煉獄先生と読んでいるが特に何も言われない、外で先生をつけてしまったことがあるがその時はすかさず「杏寿郎だ」と訂正されてしまったので私の立場も理解してくれているんだな、とまた胸が熱くなってしまった。










「お前、煉獄の家で飯食ってんのかァ」
放課後、すっかり打ち解けた不死川先生に用事があり顔を出すと開口一番で聞かれて驚いてしまった。不死川先生まで知ってるみたいだ。

「そうなんです、たまに呼んで頂いて。弟さんの作るご飯が絶品なんですよ!」
「しかしまぁ煉獄の実家とは物好きだな」
「ご家族の方、皆さんとても良い人達ですよ」

不死川先生はあまりソリが合わないのか顰め面をする、仲が悪いわけでもないし信頼は置いているみたいだけどそういえば一緒に居るところをほとんど見たことが無いような・・・

「なんで飯なんか一緒に食ってんだ、恋仲かァ?」
「ち、違いますよ!!私、両親居ないんです。だから心配してくれてご飯に誘ってくれてるんですよ!」
「・・なんだ苗字、お前両親いねぇのか」
「そうなんです、だからか煉獄先生のお家の雰囲気がとても心地よくて甘えちゃってます」

自然と顔が赤くなってしまうのがわかる。恋仲と勘違いされたのもあるが、杏寿郎さんの話をしていると好きな気持ちが溢れ出してくる。
ふと不死川先生を見ると、私のことを心配そうな顔で見つめていた。私の両親の話をしたからだろうか、ここの先生方は本当に懐が深い人ばかりだ。私が首を傾げると不死川先生の手が頭にぽんぽんと置かれた

「うちは何もねぇが、兄弟も多いし玄弥の作る飯はうまいぞォ。食いに来い」

「触らないでほしい」

急に頭が軽くなった
何処からか現れた杏寿郎さんが不死川先生の手首を掴む、その瞳は穏やかなものではなく、事務員としてこの学校に来た初日の日に宇髄先生に向けたものより比べ物にならないぐらい怒っているのだろうというのが私にもわかった。

「なんだァ煉獄」
「名前を借りていく、火急のこと故。失礼」
「はぁ!?おい!」

杏寿郎さんに手を握られ引っ張られる、そんなことよりも私は杏寿郎さんが何故こんなに怒っているのかが気になってしかたがない。私が何か気に障るようなこをしてしまったか、何か失敗してしまったか不安で考えがぐるぐる回る。

放課後の時間をとっくに過ぎた外はもう月明かりが出ている、歴史準備室にそのまま連れて行かれた名前はまだ何も言えずに呆然としていた。

「何故、あんなに不死川と近かった。何故、君は紅潮していた。」
「へ?」

口を開いた杏寿郎さんの言葉にぐるぐる回っていた思考が停止してしまった

「危機感が無さすぎる。男など皆獣だ」
「えと、はい・・っ」

私よりも苦痛の顔を浮かべている杏寿郎さんを見て涙が溢れてくる、そんな顔をさせてしまってごめんなさい。そう言いたいのに言葉が出てこない。杏寿郎さんが息を呑むのがわかった私が突然の泣き出したから驚かせてしまったのだろう

「す、すまない!!泣かせたかったわけじゃない!怖がらせてしまったな!」
「うぐっ…ひっく、うぅ」

首を振る、怖かったから泣いているわけじゃない杏寿郎さんの苦痛の顔を見て自分じゃないなにかが泣き出したのだ。最近はどんどんその気持ちに支配されているような気さえする。

「・・・名前帰ろう、少し話がしたい。」
軽く抱きしめられながら問いかけられた言葉にはいという代わりに杏寿郎を抱き締め返した。

私が泣いている間、杏寿郎さんは背中を撫でていてくれた。落ち着いてきたからもう大丈夫ですと声をかけると、杏寿郎さんに支えられながら車へと移動した。
その間、何故こんなにも違和感を感じるのだろうという思いで頭がいっぱいだっからか急な頭痛がし気づいたら目を閉じていた。



「・・・名前?寝てしまったか」





容易く夢を見ていると実感出来たは何度も夢に見た景色だからだ。何度も見ているが起きると同時に忘れてしまう夢、私と同じ魂の物語。






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痺莫