私は瑠火様との約束どおりに杏寿郎さんが炎柱になるのを見届けられた。代々受け継がれている炎柱の羽織姿を見せて頂いたときは涙が止まらなかった。
同時に杏寿郎さんに夫婦になろうと言われてからは親、親戚等の多少の揉め事はあったが
人徳故か全て丸く収まり瞬く間に事が運び祝言を挙げ、由緒のある家系ではあるが煉獄家は代々鬼殺隊なので人前式は行わずお盃を交わし誓いの言葉を交わす簡単な式になった。
それでも私は杏寿郎さんの隣で白無垢を着れただけで満足で、初夜と言われる時にでさえ鬼狩りに向かう杏寿郎さんを止めようとは思わなかった。
「落ち着いたら必ず君を抱くと約束する」
それから1ヶ月は彼は帰らなく
炎柱になった直後に急遽婚儀を行うことになった為、相当無理を押していたようだ。
原因は名前のお見合いの所為でもある。
親戚の三男坊は最後まで名前と夫婦になることに拘っていて、杏寿郎はそれに手を焼いた。ただでさえ炎柱に襲名したばかりで忙しい杏寿郎、もたもたしていると勝手に結婚をされてしまうと思い急いで名前と婚儀を交わしたのだ。
「杏寿郎さん、元気かな」
「名前さん、すみません。寂しい思いをさせてしまって。」
「なんで千寿郎さんが謝るんですか!杏寿郎さんはもう炎柱なので、それも承知の上です!」
「父が・・・いえ、俺が継子になって兄上をお助けすることが出来れば良かったのですが」
杏寿郎さんが炎柱になったことが何か影響したのか、千寿郎さんは木刀を握るがその瞳には野心が感じられなかった。優しく賢い彼のことだからきっと炎柱や鬼殺隊にならなくとも立派な青年になれるはず。
「逆です、千寿郎さんが居てくれるおかげで寂しくないんです」
吃驚した顔で見上げてきた千寿郎さんのお顔は私よりも寂しそうで、剣士に向いていないことを誰よりも悔いているのは彼自身なんだろうな。
「名前!千寿郎!戻ったぞ!!」
しんみりとした雰囲気を破ってきたのは杏寿郎さんの声
「杏寿郎さん、おかえりなさいませ!」
「兄上、おかえりなさい!」
「うむ、二人共元気そうでなによりだ!」
はっはっはと笑う杏寿郎さんをみて心が満たされていくのがわかる。
それは千寿郎さんも一緒のようで顔を見合わせて笑った、きっと私は誰よりも千寿郎さんと気が合うのだろうな。彼が居たからこそ不安な夜を乗り越えられた。
「一つ報告がある、茶にしよう!」
報告があると言った杏寿郎さんはいつもの縁側に座り甘味を楽しんでいる。
蜜璃さんとは任務が別になるらしく、彼女も柱になる為奮闘中らしい。私の周りに居る人達は改めて凄い人なんだと感じて、私は守られて待っているだけの人間だから、杏寿郎さんの妻として少し恥ずかしかった。凄い人はもっともっと先に行ってる、杏寿郎さんも蜜璃さんも。
色んな意味でやっぱり千寿郎さんとは同士なんだろう、彼がきっと同じことを考えていると容易く想像出来た。
「それで兄上、ご報告とは何でしょうか?」
「うむ!お館様に炎柱邸を戴いた、結婚のお祝いだそうだ!」
「お祝いに、邸宅・・・?」
あまりにも理解出来ない、杏寿郎さんの待遇が良いのかそれが鬼殺隊の普通なのか頭を悩ませていると杏寿郎さんが続けた。
「お祝いと言っても、柱になれば皆が担当地区の家に住む!俺には生家があるが結婚したのだからと戴いたんだ。名前どうする、君が良いのなら一緒に来て欲しい」
「突然のことで、あの、ここからは遠いのでしょうか?」
「同じ担当地区故にそう遠くはない、俺が留守の間は煉獄家に戻ると良い」
「母の看病もありますので、それでしたら慎んでお受けいたします。」
「千寿郎もと言いたいところだが、父上を頼むぞ!こちらにも適度に顔を出すよう心がける。」
「はい、兄上!ですが父上や俺のことは気にせず名前さんとたまにはゆっくり過ごして下さい。名前さんの母君のことも俺も手伝いますよ」
「そうさせてもらおう!ありがとう、千寿郎」
炎柱邸とはどのぐらいの大きさなのだろうか、今の環境とは違いお手伝いさんはどれぐらいの人数なんだろう・・・他の柱達も邸宅を頂いていることに驚いた。きっと杏寿郎さんのことだから生家に戻らないということは考えて無いだろうし、あくまで炎柱の間に住む邸宅なのかな……。
考えてもきりが無かったが杏寿郎さんに「この話はお終いだ」と言われてしまったので追々聞いていくしかなくなってしまい、そして彼はまた任務に向かった。お顔を見れて安心したがもう少し一緒に居たかったなと、いつの間にかこんなに杏寿郎さんを求めている自分に驚きを隠せなかった。
・・・
その後”隠”と呼ばれている方々のお陰で荷物は少なかったが瞬く間に転居作業は終わり、炎柱邸の広さには驚いたがお手伝いは居ないようで、掃除や修繕は必要あれば”隠”の方々も協力してくれるそうだ。杏寿郎さんには今継子は居ないはずなのでとても広くても掃除に手が回らないことはないだろう。
そして今日はついにこの屋敷に杏寿郎さんが帰ってくる。早く会いたい気持ちを抑えることもせず鼻歌を歌いながら食事の準備をしていた。
「えらくご機嫌のようだな!」
「!、杏寿郎さん!」
急な登場に吃驚していると杏寿郎さんの見たことも無いような優しげな顔に、先程の鼻歌を聞かれていたんだと恥ずかしくなってしまい顔を手で隠した。
「久しぶりなんだ、可愛いらしい顔を見せてほしい」
「杏寿郎さん、意地悪を言わないで下さいませ」
「意地悪ではないぞ!長らく愛しい妻に逢えなかったんだ、顔を見たいと思うのは当然だろう」
顔から手を外すと優しい微笑みをした杏寿郎さんのお顔がゆっくり落ちてきたこれが私の人生初の接吻だった。人生初にも関わらず私の知識では考えにも及ばないほど長い口づけで息の仕方がわからず唇からは唾が垂れ流された
「んんっ・・・はぁ・・・はぁ」
「すまない、逢えた喜びで急に事を運びすぎた!良い匂いだ、まずは夕餉だな!」
腰を抜かしてしまい立ってられない私の肩をぐっと持ち支えてくれる、杏寿郎さんはこういった行為に慣れているのだろうか。全く様子の変わらない彼に戸惑うが口づけがあまりに気持ちよく下半身の違和感を杏寿郎さんに悟られないようにするのが精一杯だった。
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