ねぇ、振り向いて。 12













大晦日とて受験生にとっては追い込み時期、眠くなるまでと勉強しているとスマホの音が鳴る。友人達からのおめでとうメールが来て年が明けたのだと気づいた。
その中に矢琶羽君からの連絡もあり一番初めにそれを開く、私はこの短期間でかなり彼に心を開いたみたい。自然と手が動いていた。

何度かやり取りがあった後に電話がかかってきた
ーーーもちろん、矢琶羽くんからだ

「もしもし、矢琶羽君どうしたの?」
『…勉強中だったか』
「年明けメッセージで集中力切れちゃったからもう寝ようかなって思ってたとこ」
『それは申し訳無かった、今日の初参りは何時頃行くんじゃ』
「決めてないよ、いつもテキトーなの」
『新年の挨拶でもしようかと思っての』

キメツ町に住んでる人達が行く神社は地元では一つしか無いので皆行く所は一緒だ。それでも、実弥と矢琶羽君の相性悪からなと少し苦笑いしてしまった。

「実弥もいるけど大丈夫?」
『ふっ、名前は殆ど不死川先生と一緒にいるのに遠慮してたら機会など巡ってこないじゃろ』
「そ、そんな一緒にいるかな…」

矢琶羽君は笑っていた。彼はクールそうに見えて結構お喋りだし古風な感じだけどインテリだったりする。
つまり変わっている、今もどこが笑うポイントだったのか分からなかったけどつられて笑ってしまう。

『時間が合えば会おうぞ』
「そうだね、連絡するね」

おやすみ、と言って電話を切る。
もう年が明けて1時間ほど経つが不死川兄弟誰からも連絡が無く皆寝ちゃったのかなと思って窓を覗くとそこには実弥の車は無かった。

「(嘘つき、すぐ戻るって言ったじゃん)」

心は揺さぶりに慣れたのか、大人になったのかはわからないが思ったより冷静でいられた。
実弥の行動をとやかく言うのは子供だなと思い、カーテンを閉めた。新年早々にこんな風に思うのは良くない、切り替えなくては。

でも、明日の…初詣は一緒に行けるよね?小さな不安と不満を抱えながら目を閉じた。








・・・








「なんで、玄弥だけなの?」

翌日、目の前に不死川家の面々は居なくて…玄弥だけが私の家に迎えに来た。

「寿美、貞子、弘、ことはそれぞれ友達と初詣に行くらしくて母ちゃんと就也はその付き添いだって。」
「えー!……実弥は?」
「兄ちゃんは朝帰ってきて今寝てる、午後は親戚ん家行くし俺は名前と初詣行こうかなと思ったんだけど予定あったか?」
「実弥と約束したのに…」

不死川キッズも歳上の私と行くより同年代の友達と行った方が楽しいか、それも寂しいけど
ーーー実弥は、朝帰り
大きな溜息を吐く。振られても諦めないで好きだと突っ走ってるのは私だし、実弥からしたら束縛される筋合いなどないだろう。
でも、でも…すぐ戻るって言ったもん、約束を破るのは違うと思う。それに初詣だって一緒に行こうって言ったのに!昨日抱えた不安と不満が大きく膨れ上がった。

「玄弥だって友達と行きたいでしょ?」
「そりゃあ…でもそしたら名前一人になるだろ」
「大丈夫、初詣一緒に行く人居るから」
「マジか、じゃあ俺友達と行っていい?」
「いいよ、神社で見かけたら声かけるね!」

なるべく、明るい声色で玄弥を送り出す。毎年恒例で皆で行ってたから気を遣わせてしまったのだろう。
それなら昨日のうちに言ってくれれば良かったのに、なんというか不死川家らしいマイペースさだ。
ーーー私、普通に出来たかな。今までだったらすぐ怒ったり泣いてたりしてたかも…感情が揺さぶられない分楽ではあるけどとても釈然としない気分になった。




勢いに任せてスマホを取り出し着信履歴の一番上にある名前をタップして電話をかける。


「もしもし、矢琶羽君?あのね…」


矢琶羽君の優しさに甘えて寄りかかっていることに、この頃の私が気付くはずなど無かった。