ねぇ、振り向いて。 18









名前が大学に行くと言い始めたのはいつ頃だったろうか…
確か高校に入ってすぐに「私も実弥と同じ大学に行きたいなぁ」なんて言い始めて勉強も中学より頑張ってたと思う。高校三年になってからはしっかりと進路決めて大学受験に本気で取り組んでいた。
名前の親は良く言えば放任、無関心なわけじゃねェが基本何でも自分で決めさせるがモットーだった。だからか物心ついた時から両親よりも俺の後をくっついて歩いてた。俺にとって守るべき存在で弟や妹と変わらないぐらい”家族”としての意識が強い、そんな名前が大学受験…何が何でも合格させてやりてェと思ってたのに。
邪魔してるのは俺だったなんてなァ







ーーー今日は三年生達のセンター試験の初日。
他の奴らだって試験なのに俺は名前のことだけ考えてた。無事に会場に着いたのか、緊張してねェといいが…。アイツの邪魔したくなくて受験が終わるまでは距離を置こうと思っていたが、思ったよりも応えた。
名前が自分から俺に近付いてこなければ俺達の距離はこんなに離れてたのか、あの後も学校で矢琶羽と一緒に居るを見かけてあの時のことを何度も後悔した。日に日に距離が近付くアイツらを俺は見てるしか出来ねぇのか…俺と名前の関係に比べたら矢琶羽なんて屁でもないのに、俺じゃなく矢琶羽に笑顔を向けているのがキツくて。だから、神社で会って自然に話せた時心の中でガッツポーズしたぐらいで、久しぶりに目が合うアイツが俺のせいで泣いていてその姿さえも可愛くて抱きしめたのもまた事実。
欲情相手には…ならねぇはずなのに最近はキスしたくなったり抱きしめたくなったり、矢琶羽にも大人気なく嫉妬して自制が効いてねぇな。名前相手に。アイツはまだガキなのによ…欲求不満のなのか俺は。

「落ち着かない様子だな、不死川」
「……伊黒」

色々考えて妙にそわそわしていると伊黒に変な目で見られ、少しだけイラつきながら返事をするとおもいっきし溜息をつかれた。

「あの少女が心配か、今日はセンター試験だろ」
「…当たり前だァ、アイツは妹のようなモンだからなァ」
「妹、ねぇ…」

今度は呆れたように吐き出されたその台詞にギロリと睨みつけると伊黒はそんなのはどうでもよさそうに隣の胡蝶の席に腰掛けた。

「不死川は案外妹離れが出来て無いみたいだ。その気が無いなら牽制ついでに女でも作ったら良いだろ、それでお前も妹離れすればいい」
「…うるせェ、人に指差すんじゃねェ」

グダグダ言いながら指差ししてきた指を掴む、ぽいっと横に投げて俺は頬杖をつくいてまた考えてしまう。…妹離れか。
名前は俺の事が好きだ、それは家族愛・恋愛感情どちらも持っていることは充分に理解している。全く嫌じゃねぇし一途なのは女としても良いことだと思う。アイツの一途さに絆されて欲情しちまったのも認めるがそれは男だったら仕方の無いことじゃねェか…。だがアイツは家族だ、恋愛感情まで応えてやることは今は出来る気がしねェ。

何度かそろそろ女を作ろうか考えたこともあったが、どうしても名前の傷ついた顔が浮かんじまって作る気にもならなかったし、アイツのことだから俺に女が出来たら大学だって就職だってやる気を無くしちまうに違いない。ならいっそのことアイツが大学入ってちゃんと就職して自立するまでは恋愛だの結婚だのは後回しだってそこまで考えていた。

結局は離れられ無いのは俺の方だったのか。
俺は…一体どうしてぇんだろうなァ…。

「俺はお前ほど不器用で鈍感な男は見たことがないな」
「アァ?喧嘩売ってんのか」
「妹を大切にする気持ちは俺には全くわからないが、他の妹や弟にもそうなのか?そうやって気持ちを独占し自分の手中に収めておこうと思うことが相手の幸せだと、家族の幸せだと本当に思えるのか?」
「……」

…んな事思った事ねーな。妹や弟達に勉強や社会でのことは口を出すが人波に揉まれて傷ついて成長してほしいとすら思ってる。なのになんで名前には傷ついてほしくない、俺だけを見ていてほしいと思うのか。


「だからお前は不器用で鈍感だと言っているんだ」
「名前は妹や弟達より早く生まれたからその分思い入れが強いだけだァ」
「……はぁ、今の選択が今後おおいに後悔することにならないといいな」
「今日はお喋りだな、お前」
「苗字名前を見ていると何故だか己と重ねてしまうところがあってな、口を出さずにいられなかっただけだ」
「手出すなよ」
「案ずるな、俺には愛しい恋人がいる」
「あーそうかよォ」

俺よりも名前を知っているような口ぶりにイライラする。
後悔、なんてするわけがねェ。俺は名前のことをこれ以上無く大切にしてるつもりだしこれからもそれだけは変わらない。










辺りが暗くなりそろそろ試験も終わった頃かと思い時計確認ついでに携帯を開くと丁度メッセージが入った。名前からだ。
『初日終わったよ、疲れたあ。』
その文で何も問題が無かったことを察して少しだけ安心し『お疲れ』とだけ返した。
明日も神社に行くかァ、朝名前に会えるかもしれねぇしな。




























・・・















次の日の朝早くに神社に着くと俺は早速手を合わせた。早々に祈願を終わらせて、名前が来るかもしれねぇし少しだけ時間を潰すかと思いなんとなく絵馬を見ていたらあるところで視線が止まる。

「(大学合格!名前………矢琶羽…)」

連名されている絵馬から目が話せない。

「んだよ、これ…」

そうか、アイツらは大学に合格したら同じキャンパスに通うことになるのか。
改めて突き付けられた事実に、俺はその場から動けないでいた。