ねぇ、振り向いて。 19









あれから実弥とは元に戻ったような、そうじゃないような関係で
元々過保護気味で優しくはあったけど仲直りした後からは随分と優しくなった気もする。
私も大好きな気持ちを押し付けることの無い日々が続いていた。受験が終わったというのもあるが精神的に波打つこともなくなり穏やかだけど少しだけ寂しい気持ちにもなる。
いつか、私自身が大人になれたら…。また実弥に好きって言うんだ。

その”いつか”は見えないが、今までみたいに焦りは生まれてこなかった。













ーーー真冬も終わりそうな季節、私は届いた手紙を握りしめて開けれないでいた。

(合格、しれてばいいけど)

一足早く矢琶羽君からは『合格だったよ』とメールが届いていて、私は早く開けたい気持ちと一人じゃ怖気づいて開けれない気持ちで彷徨っていた。
左手に合否通知所と、右手に携帯電話。

意を決して大好きな人に電話をかける。

こんな時こそ、私は実弥と一緒に居たい…

『どうしたァ?』
「実弥…大学から手紙が届いたんだけど、怖くて開けれなくて」
『……仕事終わりまで待てるか』
「待てる、実弥のお家にいてもいい?」
『いや、家に居ろォ。すぐ迎えに行くから』

確かに実弥のお家に行っても心ここに在らずで皆に心配かけちゃうかもしれない。素直に頷くと私は実弥の帰りを待った。










私の部屋で、とも思ったが実弥が「緊張してんなら外の空気でも吸うか?」って言ってくれて私は有り難く実弥のドライブの提案に乗ることにした。あんなに焦がれていた二人きり、前までは軽くあしらわれていたのに今じゃ当たり前のように実弥と二人になれることに嬉しくてドキドキしてしまう。
これも好きな気持ちを押し付けるのを我慢した賜物か…と感動してしまった。

「実弥、どこに向かってるの?」
「昔よく遊んだ高台にある広場あるだろ、そこなら落ち着くと思ってなァ」
「懐かしい!行きたい!」

あんなに手紙の前で怖気づいていたのに実弥が目の前にいるとみるみる元気が漲ってくる、私の唯一の好きな人。いつもありがとうと心の中で唱えていた。

着いた広場は夜だからか誰も居なくて、景色の良い高台は街灯も無く星がこれでもかと煌めいていた。なんとなくロマンティックな景色に二人きりをこれでもかと意識するが、私を落ち着かせるために連れてきてくれた実弥に他意は無いと思うと少しだけ落ち着けた。

「星、めちゃくちゃ綺麗…」
「少しは開ける気になったのか?」
「…うん、ねぇ実弥が開けてよ」
「テメェの合否だろォが」

そういって頭をぽかっと叩かれたが実弥は私から手紙を受け取ると丁寧に開けて中身を確認してくれた。

「どうだった?」
「……」

黙ったまま実弥と見つめ合う、その表情が読み取れなくて心臓が破裂するんじゃないかと思えるぐらいに音を鳴らしていて…耐えきれなくなった私はぎゅうっと目を瞑った。

「春から大学生だなァ」
「ーーーっ!!!」

その言葉に瞑っていた目をパッと開けて実弥を見ると、見たことが無いぐらいの優しい笑顔をしていてその笑顔に見惚れてしまう。自分が合格出来た、そんなことよりもその顔が美しくて顔が真っ赤になるのがわかった。どうしよう…なんでこんなに、ドキドキするの…。
実弥の顔はカッコイイのは知ってるし、大好きな顔でも見慣れてるのに、どうして?

惚けている私を不思議に思ったのか実弥はすぐに心配そうな表情に変わり、私の頭に手を置いて覗き込んでくる。

「どうした、嬉しくぇねのか?」
「……ううん、嬉しいよ。嬉しい。」

覗き込んでくるその顔に、自分の中でむくむくと欲が出てくるのがわかった。
実弥、好き。好きだよ。大好きで、実弥以外考えられない。

「ね、実弥…合格した、ご褒美が欲しい」
「褒美だァ?……まぁ、いいだろう。何でも言ってみ?」

「キスしたい」
「……ハァ!?」

私が真っ赤な顔で真剣に見つめると実弥は驚いてはいたがふざけることなく見つめ返してくる。少しの沈黙があり、実弥がごくりと息を飲んだのがわかった。
瞬間、プイッと視線を逸らされて、やっぱり駄目かぁ…と視線を下げようとしたその時に顎を持ち上げられて実弥の形の良い唇が私の唇に押し付けられた。

「んっ…」

っ…と唇が離れる、一瞬の出来事に目を見開いてしまう。嘘、嘘でしょ…。
私、実弥と…願ったのは自分だが、こんなお願いが通るだなんて思わなかった。

恥ずかしいやら戸惑いやらで、混乱していると実弥はフッと笑いもう一度その唇を押し付けてきた。深いものではなかったが二度目のキスは長かった…。







「これは褒美だかんなァ」
「あ、ああ、う…うん!うん!有難う!」

何度も何度も願った願いが、こんな形で叶うことになるなんて。
私のファーストキスの相手は実弥で、その事実が大学の合格よりも何倍も嬉しい。好きと言わないって決めてたけど口からは好きが溢れ出そうになっていた。