ねぇ、振り向いて。 02







「名前・・・大丈夫か?」


クリスマスの次の日顔を出してくれたのは玄弥でその手には栄養剤やプリン、家で作ったと思われるお粥の入ったお鍋を持っていた。


「おじさんとおばさん居ないんだろ、お粥作ってきたけど食べれそう?」
「・・・。」

玄弥の優しさに我慢していた涙が溢れてきてしまった。
なんで、私が好きなのは玄弥じゃなくて実弥なんだろう・・・

「えっ、泣いてんじゃん!?どうしたんだよ!」
「・・・・実弥、胡蝶先生とっ・・・付き合ってるのかな」
「あー・・・、あんなの所詮噂だろ。兄ちゃんからそんな話は聞いてねぇぞ!」

頭を撫でながら慰めてくれる玄弥は優しい、不死川家の兄弟達はみんな優しいんだ。
イブの日の事を言おうか迷ったがまだ現実を受け入れられるほど心は持ち直して無く、玄弥も何かを感じ取ったようで特にそれ以上詮索されることなく額に手を当ててきた。

「熱は・・・あるな。名前は難しい事考えるとすぐ熱出すから」
「ごめん、玄弥」
「気にすんな、兄ちゃんも心配してたし連絡入れておく。正月までには治せよっ!」

実弥にそっくりな顔でそっくりの笑顔を見せられると胸がぎゅうっと痛む。結局のところ彼女が出来ても結婚しちゃっても私の中心人物は実弥でそれ以上なんて現れるわけがない。
まだ、きっと間に合う。玄弥の優しさに感謝しながら眠りに落ちた。





ひんやりとした感覚が額に乗っている。気持ちよくて薄っすら目を開けると実弥の幻覚が見える。好き、好きだよ。ねぇ、振り向いてよ。私だけみて。言葉にならない気持ちを幻覚に押し付けてまた目を閉じた。























「んっ・・・」
「起きたかァ、熱は・・・下がったみてぇだな」
「・・・・実弥!?」

私の額に手を当てている実弥を見て吃驚する、確か眠りに落ちる前は玄弥が居たはずで
頭に?を浮かべながら見つめていると実弥がプッと吹き出した。

「なんつー顔してんだァ、玄弥は夕飯の準備があるから交代したんだよ」
「あ、なるほどね。実弥が好きすぎて玄弥が実弥に見えてるのかと思っちゃった」
「・・・ったくテメェはよくそんなこと恥ずかしげもなく言えるな」

玄弥もそうだけど実弥もよく頭を撫でたり触ってきたりする、それがどうしようもなく私をこの沼のような恋に落としてくるとも知らずに。

いつものようにこの調子で「胡蝶先生と付き合ってるの?」と聞きたかったけど今ここで真実を知ってしまえば泣き喚いて実弥を困らせてしまうだろう。玄弥にも難しい事は考えるなと言われたばかりだし、私は私らしく実弥を一途に想うだけで恋愛に先出しも後出しも無いし胡蝶先生とは真向勝負する……。いや、あの外見も中身も美しい先生になん敵うはずないけど気持ちだけは絶対に負けたくない。
目の前にいる実弥をみて負けたばかりの心を無理矢理奮い立たせた。

年の差はどうやったって埋まらないし、生徒と教師なのは今はどうしようも無いけど
今出来ることはとにかく実弥の側にいて、自分を磨くこと。勉強を頑張れば少しは近づけるかもしれない

「実弥、看病ありがとうね」
「名前の場合、知恵熱だろォ。あんま難しい事考えんなよ、何かあれば相談しろ」

兄弟で同じような事を言われて笑ってしまう。
負けないのは気持ちだけじゃない、私たちが過ごした時間も人一倍だと手を握りしめた。