ねぇ、振り向いて。 04








「飯は食ったのかァ?」
「矢琶羽君とラーメン行ったよ、新しく出来たお店みたいで今度皆んなで行こうよ!」

皆んなとは、不死川兄弟達のことだ。
実弥と二人きりなんて中々に無い事だから走り出した車の中で私は終始ご機嫌で話しかけている。

「……あァー、そうだなあ」
「矢琶羽君とはね、今日図書館で偶然会って一緒に勉強したんだ、知ってる?私と同じ大学受けるんだよ!」
「……。」
「なんか不思議な雰囲気がある男の子なんだよね、同い年じゃないみたいに感じる!」
「……。」
「実弥、聞いてる?」

「うるせェ」
「あ、ごめん……。」

調子に乗って一方的に話しかけすぎちゃった。再び不機嫌な表情をする実弥を見て押し黙る。やっぱり何かあったのだろうか、面倒くさそうにしたり適当にあしらったりされる事はあるけどこんな風に不機嫌を全面に出すのは珍しい。

「……すまねぇ、考え事してた。」
「あ、ううん。大丈夫だよ!一方的に話しちゃってごめんね。送ってくれてありがとう」

歩いて帰れる距離だったので家にはすぐ着いたけど、何も言葉を返してくれないので車から出れないでいると実弥は溜息を吐いてから呟いた。

「あいつと付き合ってんのか」
「付き合うって……矢琶羽君と?」
「手……繋いでただろォ」

要らぬ勘違いを実弥にさせたのならそれは凄く嫌だななんて思い彼の方を見るけど相変わらず前だけを向きこちらを見てくれる事は無い。
どこか項垂れている様子の彼をみてある予想が生まれた。

「付き合うわけないよ、私が好きなのは今も昔も実弥だけ!……え、まさか嫉妬してる?」
「っ……違ェよ、心配してんだろ!」

ダンっと軽くドアを叩かれてビクッとしてしまう。そっか、そうだよね。勘違いした私が……駄目だ、泣きそう。

「はァ…明日からは俺が勉強教えてやるよ」
「…!嘘、やった!嬉しい!」
「そうすれば図書館なんざ行かなくても勉強できんだろォ」
「うん、約束だよ!絶対だからね!」
「あァ、午後には行くから家で予習でもしてろよ」

私の顔を見ないまま頭を撫でてくる、その行為が先ほどの不機嫌を詫びているように感じて彼らしい態度にまた深い深い沼に落ちていく。どうしようも無く私の好きな人。ねぇ、実弥。こっち向いてよ。
それでもよぎる胡蝶先生の顔にきゅうっと胸を締め付けられたけど明日からは実弥を独占出来ると思って横切る罪悪感をかき消した。







・・・








「は?」
「すまん、名前」

目の前には約束していた実弥・・・・と約束してない玄弥が居る。
実弥と二人きりで勉強!とか浮かれていたのに、途中良い雰囲気になっちゃって勉強どころじゃなくなったらどうしようとか妄想してたのに・・・!!!
私が実弥の事を大好きだと知りに知っている玄弥は申し訳なさそうにしている。

「なんで玄弥がいるの!実弥と二人じゃないの!?」
「玄弥はテストの点数が悪ィからなあ、無理矢理でも勉強させねぇと」
「一年と三年じゃ勉強内容も違うじゃん!私だけ見てよ!」
「馬鹿野郎がァ、入試には一年の問題も出んだよ!つべこべ言ってねぇで始めるぞォ」

そんなぁ・・・テキストを準備している実弥を他所に明らかにしょげていると玄弥が小声で喋りかけてきた。

「まじですまねぇ、兄ちゃんにお前も勉強しろって言われて断れなくて…。」
「しょうがないよ、勉強しなきゃなのに浮かれてた私も悪い…それに玄弥には熱出した時にお世話になったし、わからない所があったら私も教えるよ。」
「おう、サンキュ」

玄弥に対する実弥の優しさだと思ってこれ以上落ち込むのはやめた、それに玄弥は全面的に私の恋を応援してくれているし今日のは本当に不可抗力なんだろう。嫌がるとかちょっと悪いことしちゃったな……でも二人きりで少しでも良い雰囲気になりたかった…!ごめん、玄弥!


それから三人の勉強会はつつがなく進み、意外と一年生の時の勉強の復習にもなった。おやつの時間に小休憩をとっていると実弥の携帯が鳴る、音の長さからして着信のようだ。

「悪ィ、ちょっと出てくる」

その瞬間みてしまった、
画面には”胡蝶カナエ”と表情されていた…