ねぇ、振り向いて。 05










ドア越しから実弥の声が聞こえてくる。


『あァ、今勉強教えてるところだァ……今夜?空いてるがお袋がいねェかもしれねぇから…』
『気にすんなァ、また何かあれば連絡しろォ』
『ったく、世話が焼けんな。わかったよ、じゃあまた夜連絡する』


今夜・・?今夜会うの?
血の気がサァっと引く、やっぱり実弥と胡蝶先生はそういう関係なのかも。
疑いが確信に変わっていく。聞き耳を立てながら固まっていると玄弥も気遣う様子でこちらを眺めてくる、彼も今の会話を聞いていただんだろう。


「俺、胡蝶先生のこと兄ちゃんに聞こうか?」
「……ううん、いい」


正々堂々と戦うなんて言ってもわたしだけ蚊帳の外なのかもしれない、そんな絶望感に苛まれる。
その時に携帯が鳴った、矢琶羽くんから『今日は図書館じゃないのか』とメッセージ入っていて彼とは特別に仲が良い訳でもないし約束もしていないけど今からでも図書館行こうかな…なんて逃げの思考が過り、私の頑張るなんて決意なんかこんなことで崩れてしまうんだなと意思の弱さに暗然としてしまう。

「休憩終わりにしよ、もう少し進めたいし」
「そうだな」

もうこれ以上考えたくないと思って矢琶羽君には『今日は行かないよ』とだけ返信して勉強を再開した、その後実弥はすぐに戻ってきたけど動揺を見せないように勉強に集中することにした……




















「今日はこの辺にするかァ」
「実弥…今日は有難う」
「明日は昼間に学校行かなきゃなんねェから、夕方から始めるか」
「兄ちゃん、明日は母ちゃんが夜居ない日だから俺が夕飯の担当なんだ。だから俺は無理そう」


昼間の私だったらナイス玄弥って思うところだけど、先程の胡蝶先生との電話内容が頭から離れない。でも実弥と一緒に居る時間を無駄にしたくなく、断る気にはなれなくて私から中止とは言えるはずがなかった。

「そうかァ、しかたねぇな。名前も玄弥も今日やったとこ予習しておけよォ」
「わかったよ、明日も宜しくね。」


隣の玄弥が満足そうな顔をしてこっちを見ていて彼が気を遣ってくれたんだなと理解し昨日少しだけ二人きりになれたがそれじゃ物足りなかったから有難く好意を受け取ることにした。
胡蝶先生のことはまた後で考えようとまた思考から逃げていることにも己で気付けていなかった。



「飯、こっちで食うかァ?」
「今日は夜お母さん帰ってくるから大丈夫だよ。」
「・・・・そうかァ、何かあったら連絡しろよォ」
「うん、わからない所があったら聞くね!」
「そうじゃねェ、元気ねぇだろ。疲れたか?」

そうかな?ととぼけると少しだけ怒ったような気がしたけど、胡蝶先生と付き合ってるみたいで辛いとは真実を知りたくなくて言えない。
それでも優しさを向けられているのが嬉しくて、
元気があるふりをした。





その夜何度も反対側になる不死川家を見てしまったが、実弥が出掛けた形跡は無く”また夜連絡する”と言っていたので連絡はとっているのだろうなともやもやしてしまう

なんとなく休憩間の手持ち無沙汰を解消するべく昼間から矢琶羽君と連絡をとっていて彼には『明日は行くよ』と連絡をし一緒に何かをするわけでは無いが図書館で待ち合わせることにした。一人でいては余計なことを考えて勉強にならないとわかっていたから