ねぇ、振り向いて。 07









その日の夜に布団に入り今日あった事を思い返す。
実弥は彼女が居ない、胡蝶先生とも付き合ってない…!嬉しい、良かった、やっぱり実弥に女の影なんてなかったんだ………あれ?でもなんでクリスマスイブの日一緒にいたのかな、この間の電話だって…実弥にその気が無くても胡蝶先生がという場合もあるのか。実弥は懐に入れた人間には不器用だけど慈愛のある優しさを向けてくれる、胡蝶先生にもそうなのかな…嫌だな。
急激に気持ちが萎えんでいく、少しづつ積もった不満は小さな種になり芽吹こうとしていた。
















「明日から図書館お休みなんだね」
「そうじゃのう、困ったな」

年末年始休館、30日から1月3日までお休みですと書いてある張り紙をみて矢琶羽君と勉強する場所無くなっちゃったねと少しだけ困り合う

実弥は学校らしく今日と明日は勉強を教える時間が無いと言われたので矢琶羽君と図書館に来たと言うわけだ。

「明日はカフェでも行く?」
「明日も共に居てくれるのだと思っていいのかの」
「あ、明日は一緒の予定じゃなかった?」
「いいや、苗字と一緒だと勉学がはかどるんじゃ共にカフェーに行こう」

それはとても同感で、今まで男友達は玄弥だけだったけど矢琶羽君とは毎日連絡を取っていてすっかり仲良くなり最初と違ってわからない所を教え合ったり集中するときはしっかり集中出来る良き勉強仲間になっていた。
彼もまた同じように思ってくれていたことに嬉しい気持ちになる。

そのまま席に着き勉強を始めようとした時に矢琶羽君がこちらを見ていることに気が付いた。

「なにか悩みでもあるのか?隈が出来とるようじゃ」

急に目元に触れられて身体がビクリとなる、矢琶羽君の特徴的な喋り方のせいか独特な目線のせいか時々向けられているように感じる甘さに身体が慣れていない。

「ちょっと眠れなかっただけ、大丈夫だよ」
「そうかのう、言えば楽になるかもしれんぞ。そのままじゃ勉強にも支障が出ると思わぬか」
「………実弥とね胡蝶先生付き合ってなかったんだって、でもさ付き合ってないのにイブの日一緒に過ごす?急に電話かけてきたりするものなのかな」

矢琶羽君の言うことはもっともでこのまま1人で悩んで蓋をしてしまうとまた昨日のように聞きたくないことを聞いてしまうような気がして口を開いた。少し考えるような素振りをした後に目元に置いていた手を私の顎に添える、不覚にもどきどきしてしまい矢琶羽君の妙なセクシーさにあてられていた。

「そうなれば儂と名前の関係もまた奇妙ぞ」
「…!!」

名前で、呼ばれた!この先を聞いてはいけない気がする。目を逸らしても矢琶羽君は続ける

「どちらか一方に想いがあれば、その関係は同僚でも友でもないのじゃ」
「や、矢琶羽君…」
「……不思議じゃ、名前と居ると心が弾む。儂の事だけ考えてほしいと願ってしまう」
「あ、あの…!」
「だが今大切なのは受験じゃ、恋仲じゃないと言うのであれば心配することもなかろう」

顎から手が外されるがまだ、どきどきしてる。
矢琶羽君は私のことが好きなんだろうか、それとも友達には誰にでもこうなのかな。自意識過剰に思われたくないし聞いたところでまともな返事も出来ないと思ってそれ以上は聞けない。
私の悩みは矢琶羽君の発言ですっかりそちらに支配されていた。

「ふ、おぼこよのう。」
「もうっ、からかわないでよ!」

気を取り直して勉強に取り組む、やっぱり矢琶羽君と一緒だと小さな不安も忘れて勉強出来る!そう思ってペンを持つが寝不足だったからか勉強している内に自然と瞼が降りていった。
















「名前、そろそろ閉館じゃ。」
「んっ……」

やってしまった、寝ちゃった!時計を見ると17時でだいぶ寝てしまったことに驚愕する。

「よく眠れたか」
「ごめん、寝ちゃって。起こしてくれてもよかったのに」
「名前の寝顔を見てたら起こせなくての」

また、そう言うこと言う…!なんとなく矢琶羽君が私の反応を見てからかっているのがわかるようになってきた。
冬の空はすっかり暗くなってしまい、矢琶羽君は家まで送ってくれると言ってくれて今日は断らないで素直に頷く。なんとなく携帯を確認すると実弥からメッセージが届いていた。学校終わったのかな
『どこいんだ』
『図書館だよ』
『迎え行く』
『矢琶羽君が送ってくれるって言うから大丈夫だよ』
既読が付いたと思ったらすぐ着信が鳴った

「ごめん、電話だ」
矢琶羽くんに断りを入れて実弥からの電話を取る。

「もしもし?」
『迎え行くからそこにいろォ』
「でも矢琶羽君と帰る約束しちゃったし」
『男なんちゃ全員下心があんだよ!黙ってそこで待っとけ!』

ブツっと切られて矢琶羽君のほうをみると彼は笑っていた、全部聞こえてたようだ。

「よいよい、不死川先生は名前の保護者のようなつもりなのだろう」
「あの、いつもごめんね。」

彼の台詞にズキンと心が痛む、“保護者”実弥の私に対する態度はこの言葉が的確で正しい。
ズキズキと痛む胸を押さえているとその手を矢琶羽君が優しく取り握ってくれる。

「すまない、また傷つけた」

実弥が大好きで一番なのに、彼のその肩に寄りかかりたくなっている自分に気が付いていた。矢琶羽君を好きになれれば幸せなのかな。そんなどうしようもない想いが過ってしまう。