ねぇ、振り向いて。 09








次の日、本当は名前の勉強をみてやりたかったが年末までに片付けたい仕事があって学校に居た。生徒が学校に居ないだけで思いの外作業は進み、午後になると帰る奴もちらほら出てくる。
俺もその一人だ、無駄な時間を学校で過ごすつもりもないし胡蝶先生らに飯も誘われたが丁重にお断りした。理由はただ一つ、名前と矢琶羽が二人きりだから心配ということだ。
矢琶羽の名前への好意はあからさまでほっとけねぇ、アイツは無防備すぎる。

これは保護者として当然の心配だと自分に言い聞かせて車を走らせた。
ーーー名前が行くカフェなんて一箇所しかねェ、アイツは本当にわかりやすすぎるんだよ
心の中で大きな舌打ちをしながら、素直で鈍感で真っ直ぐな名前が少しだけ憎く感じた。










いる、窓側に確実に矢琶羽と座ってる。席は隣同士ではなくて向かい合っていることに少しだけ安堵し名前にメッセージを送る。
『仕事終わった、カフェに居んだろ。』
俺はストーカーかよ…別にやましい意味なんて無ぇんだから素直に心配だから迎えにきたでいいだろォ……。頭を抱えていると思いの外早く名前から返信が来た。
『今日は矢琶羽君と勉強するね、実弥はゆっくり休んで大丈夫だよ』
まてまてまて、俺のことが好きなアイツなりの気遣いなのはわかるがなんで矢琶羽を優先すんだよ!気遣う所がちげぇだろ、半ば苛立ちながら車から降りる。
足が向かうのは名前と矢琶羽が居るカフェだ


小さめの四人席で向かい合って勉強しているからかデコがくっつきそうな距離にいる二人に頭の血が昇る、
…触るな、絶対に名前に触れるんじゃねぇぞ!
ドカドカと大股で近寄り名前の隣に腰掛ける、名前は驚いたように顔を上げる一方で矢琶羽はまるで来ることをわかっていたかのようにゆっくりと顔を上げた。その余裕のある態度が癪にさわる。

「なんじゃ、随分と早かったのう。」
「実弥!来るなら連絡してくれれば良かったのに!」
「暇だから勉強みてやるよ」

目をキラキラと輝かせる名前を矢琶羽に見せたくねぇような、俺が来ただけでこんなにも喜ぶ名前をみてみろと思う気持ちが交差する。
・・・深い意味はねェ、名前は大切な家族のようなもんだ。不埒な輩が近場に居れば守ってやりたいと思うのは当然のこと。それに名前はお前よりも俺ら兄弟のことをずっと大事に思っている、さっさと諦めやがれェ


店員にコーヒーを頼み、名前に勉強の進み具合を確認する。一昨日よりもだいぶ進んでいるし、しっかりと勉強してたのは間違い無ぇみてえだ。

「入試までの大詰め期間だァ、少しでも疑問に思えば聞けよ」
「ありがとう実弥!それにしても帰りだいぶ早かったね」
「そりゃガキ共がいねぇしな」
「ガキ共って…そんな歳変わらないのに・・!」
「学生なんてまだガキだろォ」

いつもの軽口を叩き合いながら名前の勉強をみていると向かいの男と目が合う。

「んだよっ」
「いや、餓鬼に手を出したりせんか心配になっただけじゃ」
「ッチ…ウゼェ、するわけぇだろ」
「どうだかのう?」

「え!それって私のこと?私は実弥に手出されたいよ!!」

・・・・はァ、コイツは本当にどうしようもねぇ奴だな。てか矢琶羽はこんなに俺のことを好きだと表現している名前の何処に惚れてんだァ?ったく、理解に苦しむぜ

「いいから無駄口叩かねぇで勉強しろォ」
「そうして逃げてばかりいると後で痛い目にあいそうじゃ」
「うるせェ、お前の助言だけは死んでも聞かねェぞ」


俺が何から逃げてるってんだ、確かに名前の押しの強さから一歩引いてはいるが決して逃げているわけじゃない。相手の感情なんてどうにも出来ないし、気持ちに応えられないとは昔から話してる。



気付くわけが無かった、いや気付いていないふりをしたんだ。もうだいぶ前から名前への気持ちが変化していたことを……