故望月


婚姻するのに、炎柱になり落ち着いてからという打診があった。元々が時期は煉獄家に任せるという話だったので異論は無い。

「すまない、名前が嫌なわけでは無く忙しさで時間があまり取れそうにない」
「構いませんよ、元はそういうお約束です。」
「君にも寂しい思いをさせているな」
「いいえ、千寿郎が居てくださるから毎日楽しいですよ!」
「そうか!それは良かった!」

どこか申し訳無さそうな顔をしていた杏寿郎だけど私が千寿郎の名前を出すと嬉しそうに顔を綻ばせた。十代だし何年か待ったとしても婚期が遅れる年齢ではない、それに婚姻に興味が無いと言ったらそれまでだ。
未だに実感の湧かない鬼狩りというお仕事もたまに大きな傷を作って帰ってくることと、彼の為人を見ればそれが嘘ではないことはわかる。



そうしている内に珍妙な喋る鴉が杏寿郎に仕事を伝えに来る、相変わらず礼儀正しく賢い鴉だなぁと思っていると常に着ている隊服の腰に早速刀を挿す。
その流れは毎度のことなのでもう慣れてしまった、首を垂れて送り出す。

「いってらっしゃいませ」
「今回も長引くかもしれない。千寿郎を頼む」
「御武運お祈りしております。」
「うむ!行って参る!」

顔を上げるともうそこに杏寿郎の姿は無かったので任務に向かった旨を千寿郎に伝えなくては、と思い少し歩くと遠くから声がしてきた。

見つけた鮮やかな髪色の二人に心が弾むのがわかる


「千寿郎、蜜璃ちゃん…!」
「姉上!兄上には会われましたか?今任務に向かうと伺ったので」
「はい、聞きましたよ。今回も長くなるみたい」
「……寂しい思いをさせてしまい、すみません」
「そんな、とんでもない!千寿郎と一緒に居れれば寂しくないよ!」

一連の流れを見ていた蜜璃ちゃんは場にそぐわなくにこにことしながらこちらを見つめてくる、その表情を疑問に思い首を傾げていると嬉しそうに口を開いた。

「素敵な姉弟愛だわ!」
「ふふっ、蜜璃ちゃんが居ればより寂しくありませんね!」
「名前ちゃん……!貴女がお嫁に行ってしまうなんてなんだか寂しい!」
「お嫁に行くのはこの家なのに」

抱きついてきた蜜璃ちゃん思わず笑みが漏れてしまう、こんな風に同性から好意を受けることなど中々無いのでくすぐったい。抱き返していると千寿郎と目が合う、その目が何か悲しそうに見えて気になる。また長期で大好きな兄が居なくなるのに寂しくないわけがないか……

まだ隊士では無い蜜璃ちゃんはその後すぐに稽古に向かった。
それでも私の頭の中では悲しげな千寿郎が気になって仕方が無い、年頃だし聞かれたくはないかも、それでもその憂いを晴らせてあげたいと思った。

「千寿郎、どうかしましたか?」
「あ、いえ…なんでもありません」
「何もない顔には見えないけど…言いたくないなら無理には聞きません」

「……姉上も結婚してしまうと思ったら寂しくなってしまいました。」

そうか、そうだったんだ…。この家で私と杏寿郎が結婚してしまえば千寿郎はきっと一人きりになってしまう。どうしてそれに気付いてあげられなかったんだろう…。私も杏寿郎も一番に千寿郎のことを考えてると伝えてあげたいのに言葉が見つからない。
どの言葉を告げても安い言い訳のようになってしまう、

「今日一緒に寝る?」
「……!!」

母君も居なくてお義父様はああだし…一人は寂しくて辛かろう。
どうにかしたくて出た言葉だけど案外名案かもしれない!そう思ったが千寿郎の真っ赤な顔をみて失敗したと気付く、まだ十幾つかだとしても少し子供扱いしすぎてしまったかもしれない。

「ご、ごめんね千寿郎!深い意味は無くって、寂しくないかなと思って…。」
「折角なんですが遠慮しておきます。兄上に怒られてしまうので」
「怒られないとは思うけど…他に私に力になれることは無い?」
「それじゃあ蜜璃さんの夕餉作り一緒にしませんか、結構量が多めなので」
「それは手伝うけど、そうじゃなくてね?」

何故か私の方が狼狽えてしまい、これじゃあどちらが歳上なのかわからない。
先ほどまで真っ赤だった顔が急に少し拗ねたような表情に変わり手を引かれる、その顔が悲しさに染められていないなら今はそれでいいと思った。



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痺莫