関根が静かに口を開いた。
「無理だ」
蝉の大合唱が倉庫内に響き渡る。蒸し暑さに二人とも、汗だくだ。
首をこきり、こきりと左右に捻り、飯田は関根の上から退いた。そして頭を掻き毟り、ぼんやりと座ったままでいる関根の前に立つ。
「あほくさ。お前本当に生真面目というか、後ろ向きというか、つまんないよなぁ。人生損してない?」
飯田の声は呆れたような響きをしている。
関根は、胡坐を組んで額へ手を当てた。
「それならば何でこんなことをするんだ」
飯田へ視線を向けぬまま尋ねると、彼は体操服を脱ぎながら、何を言うんだこいつは、といった風に顔を顰めた。
「いや、違くて。俺さ、お前のそういうとこが凄く嫌いだけど、めっちゃ好きだもん」
目の前で着替え始める飯田をぼんやりと眺める。
「複雑だなお前の心中は」
関根の呟くような声を聞き、制服のズボンだけを着用した姿で飯田は、にししと笑った。
「んなことない、単純よ、単純。ただやりたいだけ。これが正義」
「それならはってん場にでも行ってきたらどうだ」
関根の顔に冷淡な色が浮かぶ。それを全く気にしないのか、気づいていないのか、飯田は裸の上半身を、関根に見せ付けるようにずいっとその目前へ突き出した。
「え、無理無理。駄目駄目。だってほら、見ろよこの貧相な身体。背丈だって百六十七センチしかないんだぜ? そしてとどめはベビーフェイス。ぜってぇタチの連中が涎垂らして襲い掛かってくるに決まってんだろ」
「やれればどっちでもいいんじゃないのか?」
関根の視線は、飯田の身体に留まらない。心底興味がないようだ。
飯田が焦ったような表情を浮かべる。
「いやいや、俺突っ込む係だから。入れられる方は無理。前試したことあるけどさ、本当やばかったわ。あっこで気持ちよくなれるのって才能いるよ。誰でも突っ込まれたら喘ぐって訳じゃないんだなぁ」
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