己を奮い立たせているうちに教室へ着いた。康太はまだ登校していないようだ。

 自分の席に行く。彼方が一人で、僕の机の上にお尻を乗せていた。

「おっす。お前、酷い噂立ってるぞ? 鳥井さんにちゃんと謝っておいた方がいいんじゃあない?」

 毛先のカールが、いつもより緩い。

 顔を顰めながら歯を剥き出して唸る。

「そんなの知らないよ。それに、いつも言ってるけど僕、座りたいんだけど? 邪魔」

 あっけに取られたようにまぶたを見開いてゆく。

「ちょ、お前マジどうした? この間まではそんなんじゃあなかっただろ。悩みでもあるのか? ああ、康太を取られて悔しかったんだよな? 俺が愚痴を聞いたるから、そんなに尖るなって」

 何で、彼方に愚痴なんて言わないといけないの。そんなの、本当のことなんて言えるわけがない。僕と彼方は付き合っているんだし、その状態で、まさか康太が好きだなんて――待てよ、違う。

 それは別の夢だ。こっちの彼方とは、ついこの間からやっと喋るようになっただけの関係。それなら言えるんじゃあないの。

 気持ち悪いと思われても夢だから構わないし――教室のドアが開く音を聞き、即座にそちらへ目を向ける。康太が教室に入ってきた。渋い顔をしていても、綺麗。

 目が合った。切れ長のまぶたを細めてこっち、睨んできた。

 僕は、笑みを送る。今日も愛してるよって意味を込めて。

 ……舌打ち、されちゃった。ほら、夢なんて簡単にコントロールできないもんだ。現実だって、思うようにならないのに。

 ああ、ああ。胸が痛いよ。鋭い剣で何度も突き刺されているみたいだ。その柄を握っているのは康太なのに。僕が悪いみたいな態度を取ってくるなんて。

 彼方から肘で肩を突かれた。

「ほれ、みろ。俺が何とかしたろか?」

「何で僕に構うの」

 ショックを受けたことを見せたくなくて、それが映っているだろう目を隠すためにまぶたを伏せる。

 頭をわしゃわしゃと撫でられた。

「なんっかお前ほっとけないんだよなぁ」

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