ああ、やっぱり夢だった。ここは、いつも起きる僕のベッド。

 それにしても心臓が止まったかと思った。本当に、僕の脳は一体どうしてしまったのか。

 あんなものを見せてくるなんて勘弁して欲しい。

 枕元に置いてあった携帯電話が振動した。

 つばを、飲み込んでしまう。

 こんどは何。どれ、どこ?

 恐るおそる手に取って、メールを確認してみる。

 康太だ。僕の康太からだ!

 ――今日も寝坊きゃ? 外で待ってるから出て来なぁて、って。名古屋弁。

 もう身支度なんて構っていられない。顔も洗わず制服だけ着替えて、家の外に飛び出す。

 康太が笑っている。僕に、愛のある眼差しを向けてくれている。

 涙が込みあがってきた。

 怖い。助けて。もう、足ががくがくと震えてしまって。

「どうかしたきゃ? 何で泣いているんだが? 何かあったのきゃ?」

 一瞬でうろたえた康太が、愛しい。

 ねぇ、好きだよ。

 僕を離さないで。

 言葉にならないので、強く抱きつく。

「おい、照れるがや。こそばいわ。いごかんか?」

 胸にぐりぐり頭を擦り付けて、康太の匂いを嗅ぐ。

 嗅ぐ。

 嗅ぐ――匂い、し、な、い。

「圭?」

 顔を上げる。

 康太が綺麗に微笑んでいる。

 その輪郭が、飴細工のように、溶けて、とろけて、道路に流れ落ちて。

 見える色は赤。

 けたたましく笑ってしまいたくなるくらいに歪んだ視界。

「嘘だ、嘘だ、嘘だぁ!!」

 悲鳴を上げる喉がちりりと痛んだ。

 これは夢? なにが夢?

 どこが現実? どれが今?

 康太、どこに行ったの?

 触れてくるような感覚は、あるのに、見えない。その姿はもう真っ赤に染まって――いや、もう、赤い色しか見えない。

 何これ。僕はどうしたの。

 ねぇ、誰か。嘘だと言って。誰か助けて。

 何なのこれ。何なのこれ。

 僕、ただ、康太が好きで。ずっと、好きでいただけ――……これも、夢だとしたら。

 僕はいつから康太が好きだったのだろうか。

 どうしてそれを――思い出せない、の――

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