僕は、鳥井――いや、綾香《あやか》と中学時代から付き合っていたんだった。高校に上がって、康太――石垣《いしがき》君みたいに綺麗な顔をした子を見て、凄く、胸が、ときめいた。だってどんな人よりも綺麗に見えて。
目で追った。テニスをしている姿がまた格好良かった。憧れた。僕も、あんな風になりたいって最初は思っていたはずなのに……彼方――枝川《えだがわ》君と付き合っているって噂を聞いた。
男同士で付き合っているのに、二人は誰からも悪意を向けられなかった。枝川君は、明るくて。ムードメイカーで人気者だったし、石垣君は綺麗で、頭も良くて、皆から一目置かれていたし、そんな二人だったから……僕は。
羨ましくて。妬ましくて、欲しかった。凄く、いいなって思った。
僕もあんな風に、枝川君が石垣君を見つめるみたいな温かい視線を誰かに向けたかった。石垣君の、枝川君を触るその優しげな手つきを僕だって、誰かにされたかった。
綾香とはもう長く付き合ってきて、そんなものはもう、日常に滲んで消えていたし、でも、それでも情があって別れられなくて。
毎日が苦しかった。いったいこれは何なのかと思った。嫉妬なの、愛を求めているの、退屈だと感じる日常を何とか心躍るものにしたいの。
毎夜、胸を掻き毟っては唸り、布団に包まって涙を流した。そんなに人へ注目するのは初めてで、どうしていいのかわからなくなって。
そうこうしているうちに、たまたま、枝川君が僕に課題のノートを借りに来たんだ。そしたら石垣君が、何故か、僕に、悪いな、なんて言ってきて。
それを言うのは枝川君でしょう、と思った瞬間、頭の中で何かが弾けて――
「お、おい? 石本? お前、大丈夫か? 目が虚ろだぞ?」
「構うな、彼方。もう行こう。これで石本もわかっただろう」
二人の去ってゆく足音が聞こえてくる。
頭の中で、不愉快な、不協和音が、オーケストラのように鳴り響く。
鼻の奥がつんっと痛んだ。涙がこぼれ出して、歪む、視界。
ああ、ほら。見ているもの、歪んでいるでしょう?
これは夢だ。
夢だ。
誰か夢だと言って。あっちが現実だって言って。
お願い誰か、僕を助けて。
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