頭を抱えて蹲る。しゃくり上げる喉が痛んだ。

 もう、息が苦しい。過呼吸にでもなったのか、喘息の発作でも起こったのか、唇からはひゅーひゅーと、音が、出て、ああ、見ているものが、色を、変える。

 狂ったような赤。

 ――……背中をさすられた。

 顔を上げる。

 ああ、石垣君――違う、これは。

「どこに行ったかと思って探しやーた。めちゃんこ焦ったわ。どうしたんだ、おみゃあ、大丈夫きゃ?」

 その、名古屋弁。ああ、ああ。現実はまさしくこれに違いない。これが、事実。起こっていること。

「康太、好き? 僕を好きって言って?」

 泣きじゃくりながらその胸に抱きつくと、康太が抱きしめてくれて、その、温かさを全く感じない、感触。

「好きだがよ。おみゃあだけが好きだ。愛してゃあ。だでほら、まっと抱きしめさせろ」

 ほら、ね。こっちが本当の、今。だって僕、この瞬間。

 満面に笑みを浮かべてる。





 END
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