僕と啓二君とウルトラモンのお面


 木々にぶら下がって連なる赤い提燈って、夜に見るとこんなに綺麗なんだ、と再確認。

 尻から伝わってくる石階段の冷たさが少しくすぐったくて、面白い。

 神社の社を背に、並ぶ屋台の頭を見る。お、お、よきに計らえ、なんて偉ぶった気分になる。

 しかし、飽きた。遅い、啓二君、遅いよ。大学生のくせに、僕よりも五つも上のくせに、ぐず。大体何しに、どこに行ってんのさ。

 あ、お囃子の笛の音が聞こえてくるじゃん。太鼓のリズムが軽快で、階段に座った足をぶらり、ぶらりと合わせて揺らしながら見上げる空。当たり前だけれど、黒いね。

 遠い月。こっちの星のこと、嫌いなのかなぁ。地球がこんなに重いもの抱えちゃって、きっと、月は付き合ってゆくのに面倒くさくなっちゃったんだよ。でもきっと、やっぱり寂しくて。だから星を周りにはべらせるんだ。ああでもそれじゃ単なる我侭な奴だ。大好きな月をそんな立場にさせてはだめ。じゃあ、どうしよう。

 手を挙げる。掴めないとわかっていても、月をその平に包み込むようにして、隠す。ほら、いなくなっちゃった、ちゃんちゃん。

「何やってんだ、お前」

 と、啓二君の笑い声がする。

 腕を下ろし、階段の降りる先を見ると、両手にどっさり荷物を抱えた彼がいた……たこ焼き、綿菓子、イカ焼き、ラムネ笛、りんご飴に、玉せんべい。カキ氷を支える小指が危ういだろ。馬鹿なの?

 あ、首にウルトラモンのお面をかけてる。ねぇ、本当に、馬鹿なの? 大人なのに、子供すぎる。そんなはしゃいじゃって。せっかく渋い色の浴衣を着て、髪だって格好良く後ろに流してるのに台無し。

 片目を閉じる。焦点をひとつにして、啓二君に向けていた視線を月へと戻した。腕を挙げて作業再開。

 丸をかたどった手に入れる月。進入してくるような気がして、鳥肌が立ってきた。ぞぞぞ、ああすごい。今、僕の手の中には一つの星があるんだ。なんだか支配感がたまらない。

 と、提燈で照らされていたはずの目の前が暗くなった。近づいてくる顔から触れる、唇。

 掠め取るようにすばやく撫でてくるキス。いつの間に傍へ来たんだ。おいおい啓二君よ、邪魔、しないでとにらみつける。

「何すんのさ」

「そんな、怒るなよ。だってこっち見ないからさぁ」

 嬉しそうに笑いながら頬を引っ張ってくる。痛い、痛いよ、痛いって。

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