「啓二君って、馬鹿だよね」

 ため息をつきながら言うと彼は顔をくしゃっくしゃにして笑みを深くした。目元まで緩ませて、でれっでれっていった感じ。

「ああ、お前のことに関しては馬鹿になるんだ」

 なんて返事をしてくるけれど、そんなの嘘に決まってる。両手いっぱいに抱えてるお祭りの戦利品、首からぶら下げているお面がそれを証明しているから。

 祭りの会場をひとしきり回った後、のんびりしようと思って神社の社まで階段を登ってきたのにさ。休憩なんて一瞬で、ちょっとここで待ってろって言って一人で駆け下りてったのは、誰さ。

 結局買い物ばっかりして満足げに戻ってこられたって……馬鹿なのは、僕のことに関してだけじゃ、ないでしょう。

 あーあ、と啓二君を無視して立ち上がる。一つ、伸びをする。関節が空間を広げ、波立つ快感。その分だけ待った時間。苛々、止まらない。

 頬を引っ張る手を振り払い、黙って階段を下りる。たくさんの袋をがしゃ、がしゃ、と鳴かせながら後ろを追いかけてくる啓二君の気配。

「まぁまぁ、そんな怒るなって」

 だって、仕方が無いじゃん。僕よりも子供な啓二君を見ていると、妙に苛立つんだから。

 並んでいた赤い提燈が途切れた。斜め後ろを見てみると、そこには置いてけぼりにされた鮮やかな光。寂しそう。

 違うか。寂しいのは、僕。もうすぐ見える橋でお別れ。僕達の家はそこから調度、正反対の道の先にあるので仕方が無い。

 後ろから聞こえてくるお囃子の笛が泣いているようだ。ああ、行かないで。まだ遊びましょうって。でも、だめ。九時までには帰るって親に言ってあるから、それを破ったら怒られちゃう。

 歩く僕の後ろから「おわっ」やら「あぶねっ」やら声が聞こえてくる。啓二君、本当に君は、何って馬鹿なんだろうか。

 振り返る。照れたように笑っちゃってまぁ。

 両手いっぱいに荷物を抱えて、どうすんの、それ。呆れた視線を送ってやる。

「お前これすきだったろ?」

 荷物を落とさぬようバランスを整えながら、啓二君はりんご飴を僕に差し出してきた。

 そういえば……イカ焼きも好き。玉せんべいも。綿菓子も…全部、好き。そのウルトラモンのお面以外は。

 啓二君は荷物をいったん道に置き、それから首にかけていたお面を僕の頭に乗せてきた。細まった目が彼を大人なのだな、と意識させてきて、なんだか落ち着かない。乱暴にりんご飴を受け取とった。

- 41 -

*前次#


ページ:



ALICE+