「何でこんなに買ったのさ」

「つい、な」

 つい、でこんな迷惑をかけないでほしい。啓二君は本当に、面倒くさい。

「じゃあここでさっさと食べちゃお。急がないと、九時に間に合わないし」って、道に置かれたイカ焼きに手を伸ばす。

「や、これは全部お前への土産にと思ったやつだからさ」

 あわてた様子で僕の手を阻止してくる、彼。馬鹿なんじゃないの。いや、やっぱり馬鹿だったのか、か。

 体格差を考えろよ。大学生の彼の腕と、中学生の僕の腕は長さも太さも全然違う。大人な彼でも両手いっぱいになって、バランスを今にも崩しそうだったのに。そんなの僕が持てるわけない。

「そんなの無理だから食べよ」

「いや、だから、無理じゃないって」

 何でだよ。不可能を可能にする何か案があるとでも言うのだろうか。僕の手が四本に増えるとでも――啓二君、もしかして……。

 頭に乗せられたお面を滑らせるようにして顔へかぶせる。まぁ、これがウルトラモンなのはこの際忘れよう。

 おろおろとした様子でいる啓二君へ、そっと尋ねた。

「もしかして家まで送りたかった? だからこんな、一人じゃ持ちきれない量のお土産買ったの?」

 彼の顔がみるみる真っ赤になってゆく。それはまるで、僕が持っているりんご飴みたいな色。

「少しでもお前と一緒にいたいと思ってさ」

 って、馬鹿。馬鹿。阿呆。啓二君が買い物をしている間のほうが、帰り道よりも長かったっての。

 早く言ってくれたらよかったのに。長く一緒にいたいって聞いていればもっと、僕だって優しくしたのに。

 何度目になるかわからないため息がでた。しゃがんで、道に置いた荷物の半分を啓二君へ渡す。綿菓子が、少しだけしぼんだような気がした。

 お面をしたまま、立ち上がる。そしてすばやく歩け、足。大体さ、僕がウルトラモンを好きだったのは、小学四年生までの話なのに、なんなの。いつまでそれを覚えてんだ。

 後ろから静かについてきていた啓二君。少しいじめすぎたかな、と思うけれど、僕には今振り向けない理由がある。

 顔をうつむかせ、唇をかみ締める。その時、突然啓二君が嬉しそうな声を上げた。

「おい、耳が真っ赤だぞ! 顔を見せてみろ」

 啓二君は馬鹿にくせに、時として実に鋭い。僕はちっ、と舌打ちをしながら顔を更にうつむかせ、彼に追いつかれないよう走り出した。


END
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