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 全てが終わってしまった今も、頭の中にはあの頃鳴っていた黒電話がある。

 華やかな花々に囲まれた草原の中央に一つ、もう壊れてしまったそれは存在している。

 風は鳴り止み、赤いゼラニュームも黙り果て、青々とした緑は折れ、萎れている。そんな中で昔、小さく鳴っていた愛すべき存在は今、受話器を草花に絡みとられ、決して手の届かない場所へといってしまった。

 俺は、様々な色へ染まってしまった靴を履き、静まり返ったその場所で体を小さくしている黒電話の、すぐ目の前に立っている。

 少し伏せた目蓋の端から止め処なく溢れ出る感情で頬を濡らし、それは電話に落ちて無数の染みをつくる。

 濡れた黒電話は、その色を益々深め、小さく痛む、胸。

 頭の中から彼の存在は、消えない。

 もう二度と鳴らなくなってしまった黒電話は、草原の中でただ、ただそこにあり続ける。

 全てを無くした俺は、嗚咽の漏れる唇を噛み締めながら胸を押さえ、力なく手足を震わせながらいつまでも、いつまでも電話が鳴る事を祈り、待っている。





END
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