相手がババを持っている。
飯束は、その顔色を伺った。持たれている二枚のカードのうち一枚を指で摘むと、相手の眉間へ微かに皺が寄ったので、にんまりとしながらそれを引く。
「はい。お前の負けね。今フリーだし、ちょうど良かったな!」
言われると同時にカードの表を確認し、ジョーカーに向かって歯ぎしりをする。
相手より舌を突き出され、からかわれた。
「ばーか。じゃあ罰ゲーム、いってらっしゃーい」
「マジでしないといかん?」
にやにやと見つめてくる友人らへ、懇願するような甘えた笑みを浮かべる。
その、子猫のように愛らしく感じる上目遣いへ一瞬にして皆が顔を赤らめさせるのだが、やらなくてもいいという台詞は誰からも発せられなかった。
飯束は椅子から立ち上がり、地団駄を踏んだ。
「や、だ!」
最後に残った相手に肩を軽く叩かれる。
「いいのか。やらないとお前、全裸で逆立ちをして、校庭を一周だぞ」
その言葉を聞きぐぅぅっと唸ると、更に言葉を続けられた。
「告白、断られてもそれやらんといかんからまぁ、頑張りな」
一番先に上がった友人がにやにやと笑いながら口を開く。
「飯束なら大丈夫だろ。断られることはまず無いって。あー、あんなダサ男とのお付き合いをしないといけないなんて、ご愁傷様! お前、バイで良かったな」
肩を叩きあって人の悪い笑みを浮かべる彼らへ大きなため息をつくと、もう一度飯束は皆へ、懇願するように甘えた瞳を向ける。
しかしやはり首を横に振られ、彼は頭を掻き毟りながら教室を飛び出した。
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