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校舎を全て見回り、残るは屋上のみと、荒々しい足音を立てながら飯束は走り続けた。そうしていなければ苛立ちが収まらず、大声で叫んでしまいそうなのだ。
屋上の扉を開くと、フェンスに凭れかかりながら煙草を吸っている井上の姿があった。それを目視し、乱れた前髪をささっと手櫛で整える。
自分の存在へはすぐに気づかれた。後ろへ撫で付けられたショートカットが風で少々乱れ、それを手で押さえ始めた井上より顔を向けられる。
「生徒は屋上への立ち入りを禁止されているはずだよ?」
優しい口調で言われ、飯束の中にあるほんの少しの道徳心が微かに痛んだ。眉を寄せてゆく。
吸っていた煙草の火を携帯灰皿に押し付けて消すと、井上はそれをスーツの上着にあるポケットへしまった。
「話があるんですけど」
首を傾げながらフェンスへ凭れかけさせていた身体を起こした井上に、ゆっくりと近づかれる。
「進路相談ならば、進路指導室へ行こうか」
「違います」
ぐっ、と歯を食いしばり俯くと、井上が困ったような表情を浮かべた。
「それならば何の話かな」
飯束は、大きく息を吸い込みながら強くまぶたを閉じた。その顔色は少々青ざめている。手のひらを握り締め、口を開いた。
「好きです。付き合って下さい!」
校庭で活動している運動部の掛け声が、彼の言葉へ余韻を残させようとするかの如く、屋上にまで響いてきた。それは、サブパートに蝉の鳴き声を混ぜている。
長くなってきた日はまだ落ない。
眩しそうにまぶたを細めた井上に軽くため息をつかれた。
「ごめんな。生徒とは付き合えない」
まさか断られるとは思っておらず、まぶたを開いて驚き硬直をする。
このままでは全裸で逆立ちをし校庭一周させられてしまう。飯束は焦った。
「いや、あの、それでも付き合って下さい」
「無理だよ。俺は教師なのだし。君は生徒でしょう」
「無理は承知です! 付き合って下さい!」
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