井上は首を横に振る。

「あのな――」

「そうでないと!」

 飯束の顔色はもう、真っ青だ。

「屋上から飛び降りるしか無くなるんだよぉぉぉ!」

 唇を震わせながら絶叫する。

 それを驚いたように見つめていた井上だったが、何かを察したようで、眉を上げた。

「それは、あれだよね。俺が好きすぎてという感じではなさそうだね」

 重たそうな眼鏡のフレームを指で押し上げる。

 肩に手を置かれ、優しくそこを撫でられた飯束は、綺麗な顔をくしゃくしゃに顰めながら俯いた。

「で、どうして付き合わなければ自殺すると言うのかな」

「言ったら、絶対怒るから言えません」

「俺が怒るような事、ね……こんな冴えない俺へ君みたいな生徒が本気で惚れる訳がない。そして、その言い草」

 肩に置かれた手の力が強くなったような気がして顔を上げた飯束は、息を飲んだ。

 目の前には井上の、陽の光を反射させている眼鏡が見える。

 ふと、その中身はどんな表情をしているのか気になった。

 井上の唇がゆっくりと開かれてゆく。

「罰ゲームで、告白をしに来た? それで、断られたら更なる罰が待っているんでしょう?」

 飯束はのどを鳴らした。暑さを感じているはずの身体が何故か冷えている。

 さらりと、井上が離れていった。何かを考えるように中へ視線を漂わせ始める。

 居心地の悪さに身体を揺らしていると、また視線が突き刺さってきた。

「付き合いはしないけれど――そこまで嫌がる罰を受けさせるわけにもいかないな。振りだけなら数日くらいは付き合うよ。けれど……それは、俺と君と、君の友人らの秘密だ。守れるかな?」

「ま、守れます。守らせますっ!」

 天の助けとばかりに両手を組み激しく頷く。

「それで、こんな阿呆なゲームをしている友人らはどこにいる?」

 その、聞いたことの無いような低い声へ、飯束は違和感を覚えた。

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