誰も居ない放課後の教室。僕はこれ幸いとばかりに、椅子に座ったまま目蓋を閉じる。

 ああ、今日も僕の宇宙は綺麗だなと、うっとり夢心地で空想を開始させた。

 星が列を作り、惑星の周りを飛んでゆく。それに煽られるかのように惑星が、ゆっくりと回転を始める。真っ暗な宇宙の中、くるりくるり、びゅーんびゅーんと飛ぶそれらはまるでサーカスのショーを見ている時のような興奮を僕に、与えてくれる。

 僕は熱中してそれを見ていたのだが、急にその宇宙が揺らいだ。

 意識が現実へと戻ってゆく。息が苦しい。惑星が水飴のように、柔らかい弧を描きながら黒い色に溶けてゆく。

 僕はついに、目蓋を開いた。そして目の前の悪魔を睨み付ける。

 彼は無表情で僕を見つめていた。だから僕も、無表情で、彼へ仕返しをする。

 合わさった唇はとても熱く、その瞬間はいつも僕の宇宙が遠い彼方へ消えてしまう。彼の匂いと柔らかい唇と、優しく動く舌に僕の意識は現実へと持っていかれてしまうのだ。

 悪魔な彼は、僕へ手を差し出した。僕は、仕返しの続きをと思い、その手を強く握り締めた。

 その瞬間彼は、心底幸せそうな緩んだ顔をした。そしてその時僕は、自分の仕返しが成功したのだと心底嬉しくなった。

 僕と悪魔は手を繋ぎ、階段を下りる。ふとした拍子に目を閉じ、宇宙を甦らせようとする僕へ、悪魔は立ちはだかる。何回も合わさる唇と、強く握り締めた手は本当に熱く、僕は負けを認めてしまいそうになるのだがしかし、必死でそれを堪える。

 僕の前には宇宙が広がる。目を閉じるたびにそれは大きく、広くなる。

 けれども悪魔な彼が居る時だけ、その宇宙は一瞬で溶け流れてしまう。

 この勝負は永遠に続くのかもしれない。僕は、負けないように舌を動かし、握る手の力を決して緩めないだろう。



END
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