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様々な音を耳にしながら森直太は、友人より注がれたビールを一気飲みコールに合わせて喉へ流し込んだ。
喧騒渦巻く居酒屋の中。彼と友人二人で酒を飲み騒いでいる。
百七十四センチある背丈。背筋を伸ばして腰へ手を当て、中ジョッキに入ったビールを飲み干していった。
ウルフショートに整えられた髪は、スモーキーアッシュに染めている。二重目蓋は人懐っこそうに細められていた。
「お、もう十二時過ぎたぞ。お前、帰るか?」
友人、野呂より肘で横腹をつつかれ、笑いながら身を捩った。
「俺が帰ったらお前ら通夜みたいな雰囲気になるだろ!」
「ばーか。蘭が待ってんだろ? それにしても以前はよく飲み会に連れてきてたのに、最近は何で一緒に来ないんだ?」
直太の頬が一瞬痙攣をするが、すぐにそれは朗らかな笑みへ隠れた。
「蘭はあんまし酒強くないしな。こういう席は苦手なんだよ」
「え、俺蘭に会いたいんだけど。あんな可愛かったら男でも関係ないよなぁ」
もう一人の友人、加護が直太へちゃちゃを入れる。
野呂が、そんな加護の後頭をはたいた。
「お前に会いたくないんだよきっと」
「え、何でさ。俺はこんなに愛してるのにー」
首元まで赤くした加護は完全に酔っ払っていた。直太へしなだれかかる。
「俺、直太がいないと生きていけないからな!」
蘭の声まねをした後、喉の奥でくつくつと笑う。
直太が、加護を押し退けた。
「阿呆なことしてんなって」
二人を見て野呂はため息をこぼす。
「そういえば蘭はもうすぐ誕生日だよな? お祝いとか計画してるのか?」
「まだしてないけど?」
首をかしげる直太を見た野呂の眉間に皺が寄る。
「お前さぁ。付き合って三年になるんだっけ? 長い付き合いだからって手抜きしようとすんなよ?」
そこへ加護が参戦した。
「お前が計画しないってんなら俺がやってやるよ!」
再び、野呂が加護の後頭をはたく。
「カップルの邪魔すんなよな」
「ええ!? いいじゃん。俺だって蘭を祝いたいっちゅーの」
にらみ合う二人を見て、直太は苦笑した。徐々に淀んでゆく空気へ気づき、口を開く。
「んじゃ、皆で祝ってやるか」
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