野呂はビールを一口飲んだ後、目を細めた。

「いいのかそれで」

「大丈夫だって。蘭も喜ぶさ」

 焼き鳥へ手を伸ばしている直太を見て、加護が悲鳴を上げた。

「うわぁ! それ食ったら駄目だって」

 直太が笑いながら焼き鳥の串を掴む。

「どうせお前が何か阿呆なことしたんだろ。俺に任せとけ!」

 と、口へ含んだ瞬間――鼻につんとくる強烈な辛味が彼を襲う。

「な、なにをしたんだ」

 硬直をした直太の背中をさすりながら、野呂は加護へたずねる。

 加護は、飄々と笑った。

「え、わさび。塗りこんで遊んでた」

「いつの間にだよ。どんだけ丁寧に塗りこんだんだ。一見わからんかったぞ」

 引き攣った笑みを浮かべつつ、野呂は直太の背中をさすり続ける。

 硬直が解けた直太は鼻から思い切り息を吸い、口に含んでいた焼き鳥を一気に飲み込んだ。

「お、さすが直太。この場の空気をわかっていらっしゃる」

 ちゃかす加護を野呂が睨んだ。

「いい加減お前も大人になれよ」

「男は永遠に子供でいいの」

 嘲るように目をむき出して首を突き出す。

 喧嘩が始まる予感を受け、直太は二人の交わる視線へ割って入った。

「野呂みたいにしっかりしてる奴がいるから、加護だってこんな風におちゃらけられるんだよな」

 温かい眼差しを双方へ向ける。

 野呂が、頭を掻きながら諦めたようなため息をついた。

「で、ビール追加する?」

 加護の提案へ二人は手を挙げる。

 彼らの夜はまだまだ終わる様子を見せなかった。

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