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終電に乗って帰った直太は、マンションに着いた時携帯のメール着信へ気がついた。
慌てて内容を確認し、しまった、といった風に顔を歪める。
エントランスを小走りで通り抜け、エレベーターに乗り四階で降りる。すぐ目の前にあるドアの鍵を開き、中へ飛び込んだ。
「遅くなった! ごめん――……寝てる、か?」
部屋の電気が全て消えていることに気づき、語尾を弱める。
直太はしのび足で洗面所へ向かった。さっさとシャワーを浴びて、蘭の寝ているベッドへ忍び込もうと考えたようだ。
そんな背中を暗闇から見ていた瞳が光った。
「十二時半には帰るって言った」
完全にすねた声だ。
直太は慌てて振り向いた。俯きながら立っている蘭の傍へ駆け寄る。
「や、ごめんて。ちょっと盛り上がりすぎちゃってさ。帰ると空気悪くなるだろ?」
「何で……」
蘭が、顔を上げる。その頬は涙で濡れていた。
「何で、直太はいっつもそうなんだよ!」
直太の肩が跳ね上がる。
黙ったままおろおろとしている直太を、蘭は強くにらみつけた。
「空気、空気って……他の人を喜ばせるためだったら、俺のことはどうでもいいってこと!?」
「や、違う。違うって」
「飲み会、あんなに行かないでって言ったのに。こうなるような気がしたから、止めたのに」
悔しそうに唇を噛み締めながら俯き始める。
直太は情けない笑みを浮かべながら、蘭の肩を軽く叩いた。
「ちょっと遅くなっただけじゃん、な?」
「一時間半が直太のちょっと、なのかよ!」
肩に置かれた手を激しく叩き落し、蘭は叫んだ。
「や、まぁ……だから、ごめんて。大体お前も行けばよかっただろ」
何度も頭を下げる直太。
「行かない」
「何でだよ。野呂と加護だってお前に会いたがってた――」
「そんなの、直太に対するリップサービスだろ」
言葉を遮り吐き捨てるように言う蘭へ、直太の表情が険しくなってゆく。
「それは流石に失礼じゃあないか? 蘭」
ほのかに冷たくなった空気を感じた蘭は、唇を尖らせながらそっぽを向いた。
「だ、って……参加しても、お前ら三人でわいわい喋ってばっかだから」
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