「それは蘭が会話に参加しようとしないだけだろ?」
蘭の顔に焦りが出る。彼は自分が人見知りであると理解をしていたので、必死に頑張っているつもりでもそれが、他者にはそう見えないのかもしれないと常々感じていたようだ。
しかしそれでも主張だけはしなければ、と彼は直太を下から睨みつけた。
「参加しようとしてる」
直太がため息をつく。
「してないよ。何を聞いてもツンケンした態度しかとらないじゃあないか」
「……聞かれたこと、ちゃんと答えてはいるだろ!」
地団駄を踏み始めた蘭へ、直太の目が細められた。
「そんなんじゃあ社会に出た時やっていけないぞ? もっと人間関係を円滑にする技をだなぁ――」
「……話がそれてる気がする」
蘭が、ふと首をかしげた。
「あ、そこ気づきますよねーやっぱ」
苦笑しながら直太は、顔の前へ両手を合わせて頭を下げる。
「ごめんて。ほんと、ごめんってば。遅れたお詫びにいい話を持って帰ってきたからさぁ」
「何。阿呆なことだったら怒るよ?」
「もう怒ってんじゃ――っと、いやいや。まぁ聞けって」
蘭の眉が吊り上がったことへ慌てながら、口を開く。
「お前、明後日誕生日だろ? 行きたがってた焼肉屋、予約できたから」
その台詞で、部屋の空気が一変した。蘭の顔より怒りの色が引いてゆく。
「え? どうやって? あそこ人気すぎて一年は予約待ちしないといけないでしょ?」
戸惑いながらも喜び始めた蘭を見て、直太の表情も緩む。
「加護がさぁ。あの店に顔が利くんだって。で、頼んでもらったわけ。そんで、野呂と加護もお前を祝いたいって言うから呼んだ――」
「直太。それ本気で言ってんの」
低音で唸られ、直太の腰が引けた。
「な、にそんな怒ってんだ?」
蘭の形相は鬼のようになっている。大きな瞳は吊りあがり、唇は微かに震え、眉間に深い皺が寄って――
「二人に会いたくない!」
大声で怒鳴る蘭へ、直太が顔を顰めた。
「……それは、ちょっとさ。ないよ。加護があんな必死になって、お前の行きたがってた店を予約してくれて……野呂だって、プレゼント持ってきてくれるとか言ってたんだぞ?」
深々とため息をつく直太を見て、蘭の形相が少し戻ってゆく。しかし、やはり怒りは消えないようだ。頬に赤みが残っている。
蘭は、俯いた。
「だ、だって。俺は……俺、直太と二人で過ごしたかったのに。い、いちゃ……いちゃだってしたかった!」
「いつもしてんだろ」
きょとん、とした声を聞き、蘭の涙腺が緩む。
「直太の馬鹿! 知らないからな!」
「ちょ、おい!」
自室へと駆け込む後姿へ手を伸ばす直太だったが、その背中が全力で拒絶を示していたので、伸ばした手を横へと下ろした。
「まったく。何だってんだ」
酔いがさめてしまったと、直太は己の歯列を舌でなぞった。
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