勝手に力を入れようとする足を宥めながら彼を見る。

「何故? 待たないといけないんだ?」

 アスファルトにこすり付けていた額を上げ、彼はかすれた声を上げた。

「俺が悪かった……俺が認めなかったから。お前を好きだという気持ちを……怖かったんだ。自分が思っていた常識と違う、自分の感情が、怖かった」

 蒼白な頬に涙を流しながら、僕へと手を伸ばしてくる。

「戻ってくれ! 決心したんだ! 俺は、お前と一緒にいたい! お前がいなくなったら俺は……生きていられない」

 ああ、馬鹿だなぁと、血を流した僕の親指が言った。僕だって怖かった。皆と違う自分が恐ろしかったし、何故だ、と怒りもわいた。しかしそれでも、好きだった。彼が。

 もう感じてしまった。身体の重さを。思考することへのわずらわしさ、これから地に足をつけて生活をしてゆく上での、全ての障害を。そして、彼をそれに付き合せようとした罪悪感。

 振り返らせた顔をまた前に向ける。フェンスをしっかりと握っている手。腕に力が入った。

 上へ、上へ。

 浮き立つ足。鼻歌を歌いたい気分だ。

 身体を持ち上げる腕と、足。空が近づいてくる。

 伸ばした腕をそのままに呆然とこちらを見つめてくる彼ヘ、フェンス越しから笑いかけ、舌を突き出す僕は……滑るように、空気の膜に包まれ、頭から、急速に――……

「それならば追いかけてくればいい」

 聞こえてきた彼の叫び声を耳の中で反芻させる。

 視界を染める夕焼けの赤が、あの日キスをした時に見せてきた彼の顔色とかぶって見え、すごく笑えた。


 END
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