最初は、泣いていることに気付かなかったよ。

 お前がこれからどうなるのかを想像していたり、今までどんな風にお前と過ごしてきたのかを思い出しているのに夢中でさ。本当に、泣いているのに気づかないなんてことあるんだな。

 で、ふと現実に意識を戻してみたら、眺めていははずの景色がすげぇ歪んでたんだわ。何なんだって思ったら喉が熱くなってて。勝手にしゃっくりが出て。

 頬が痒くて、触ってみたら濡れているし。

 即座にあたりを見渡したら、電車に乗っていた人から視線が集まってた。喪服姿の奴が泣いているってなったらば、その理由は簡単に予測できたんだろうな。皆して気の毒そうな顔を向けてきて。

 それは別に、いいんだ。ただ泣き顔を見られるは恥ずかしくてさ。

 まずは歯を食いしばったり、唇を噛み締めたりして涙をこらえようとしたんだわ。でも、蓋が外れてたみたいでさ。どうしても止まらんかった。

 次に上を向いてみた。喉に涙を流し込んでしまおうと思って。でもさ、駄目なんだわ。涙の流れる筋が出来ていたからか? わからんけど、流れ出てしまってさ。

 だから顔を両手で覆ったわ。

 せめてしゃくり上げないように、静かにしていようと思っていたのに肩が震えて――

 耐え切れなくなって、すぐに電車を降りて、な。

 降りた場所が無人駅で良かったわ。人も降りなくて。

 大きな空き缶があって、そこに切符を落として、改札を抜けて、とにかく走った。

 目的地なんてもちろん無かった。

 走って。足を回すようにして走ってさ。

 喪服って動き辛いよなぁ。

 で、泣いて。しゃくり上げながら。

 大声で喚きたかったけどそれだけは、な。頭のどこかに冷静な自分がいたんだろうなぁ。できなくて。

 鼻をすすりながらさ。もう、顔なんてぐしゃぐしゃに汚れてたと思うぞ。

 田舎道を走って、息が上がってもとにかく走り続けて、頭へ酸素がいかなくなったんじゃあないかって思うくらいに苦しくなった頃にやっと、立ち止まった。

 そんでな。

 立ち止まったところからさ、田んぼが見えたわけ。

 その時には夕方になっててさ。

 一瞬涙、止まったわ。

 綺麗な景色だったからな。

 人はまばらにしかいなくて。それも、少し離れたところにしかいなくて。

 田植え前だったんだろうな。稲はまだ植えられていなかったけれど、そこには水が張ってあってさ。そうなると、わかるだろ?

 夕日がな、色を田んぼに移すわけ。

 きらきらと輝く水面が真っ赤だったなぁ。

 カラスが鳴きながら飛んでて、風が吹いて、傍に生えていた木々が葉音を立てて。

 つい、目を細めて見とれてしまったよ。

 それで、呼吸が落ち着いて。

 またすぐにぐわっと、熱が上がってきて。

 見ている景色が涙に揺らいだ。

 これをもう、お前が見ることは無いんだと思ったら――涙がさ、ぼろぼろ出てきて。

 今、思い出しても泣けるわ。お前、どうしてくれるんだよ。

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