雨。まだ降っているかな。だから先生はこんな風にゆっくりとキスをしてくるのか。二重のくっきりとしたまぶたが細められていて、やっぱり、猫のよう。

 流れ出す雨はいったいどこへ行くのか。この関係に終点はあるのだろうか。

 新卒採用された竹川先生は、先に教師という職に付いたにも関わらずいつまで経ってもドジばかりする僕へ、にこやかに話しかけてくれた。冴えない僕に、手を差し伸べてくれた。

 告白されたと同時に犯されたあの日。竹川先生は泣きながら、何度もあやまってきた。どうしても堪えられなかった、好きです、愛しています、どうか拒絶しないで下さいって、何度も、何度も。

 夜だった。校舎内の見回りを二人でしていて、音楽室で突然背後から抱きしめられた。そのときはまさか、自分が犯されるだなんて思ってもみなかった。そしてその後、彼がそんな顔を見せてくるのだと考えてもみなかった。

 ――触れ合う唇が温かい。彼の、雄の、匂い。

 いつのまに好きになってしまったのだろう。最初はただ、そんな風にしおれる竹川先生を見たくなかっただけなのに。納得して、恋をして付き合ったわけではなかったのに。

 お人よしですね、と、寂しそうに言われたあの時からかもしれない。本当は拒否をしたいのでしょう? と、悲しそうな笑みを向けられた瞬間に胸のざわめきを覚えたのだから――

 唇を割って舌が入ってきた。見ている顔は、頬が赤い。

 唾液で糸を引きながら唇を離してゆくその、いやらしさ。

「次はどこでセックスしましょうね?」

 長いまつげがかすかに震えている。心底愛しい者を見るような、温かい光が宿った瞳。

 やっと開放された手で胸元を強く掻き押さえ――

 ああ、ああ。

 きっと、この恋が僕を殺す。




 END
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