この愛に僕は滅ぶ


 顔を上げてみれば、頬に何かが滴り落ちてくる。粘着質な感覚からしてきっと唾液だろう。

「上代先生? 今、ご自分が一体どんな格好をしているのかわかりますか?」

 艶を帯びた竹川先生の声で、首筋へ僅かに鳥肌が立った。

「いやらしいですね。普段、授業をしている教室で、児童が使っている椅子へこうして股を広げさせられ縛られて……眼鏡の上から目隠しされるときついですよね? その布は取ってしまいましょうか」

 耳元で囁かれたと当時に視界がクリアとなり、窓から差し込んでくる夕日が目に突き刺さった。日曜日の校庭には誰の姿もない。  

 裸の尻に、椅子の冷たさを感じる。竹川先生は鼠を前にした猫のように舌なめずりをした。左斜めに軽く流している前髪が、彼の綺麗な形をした眉を隠している。

 右と左、それぞれの両手首と足首を縛られて開脚された躰に、竹川先生のじっとりとした視線を感じる。スーツを着た胸元と椅子の背が縛り付けられており、首から上しか身動きが取れない。

 夕日に照らされた竹川先生はとても格好いいのに……窓に映る僕といったら本当に冴えない。せめてこの銀縁眼鏡をコンタクトレンズに換えようかと思ったのだが、眼鏡の下は自分にしか見せないで欲しいと緩んだ笑みを見せられ、従う以外に選択肢はなくなった。

「窓に映る上代先生の姿……はしたないですね。あんなに嫌がっていたのに、ペニスからカウパーをいやらしく滴らせて」

 竹川先生が優雅な動作で目の前へ跪いた。赤い唇を尖らせて、ふっ、と鋭い息をそこへ吐きつけてくる。

 彼の言うとおり、僕はこの行為を嫌がっていた。以前トイレでセックスをした時だってそうだ。しかし竹川先生から艶やかに微笑まれると、どうにも抵抗できない。彼の魅力に囚われてしまい、本来あるはずの自分は次第に薄く引き延ばされてゆく。この恋はいつか僕を殺すだろう。

「ペニスがひくひくと、頭を揺らしていますよ? これを」

 骨ばった指でペニスを柔く握られ、全身から汗がぶわりと噴き出してくる。

「どうされたいですか? ねぇ、先生?」

 彼は卑怯だ。そんなもの言わなくてもわかるだろうに。

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