……ああ、一気に話してのどが渇いた。水、くださいよ。

 もういいでしょうが。殺すのか、殺さないのか。あの日にこうして僕を浚って、椅子に縛り上げ、食事を与えず水だけちびちび飲ませるのは、何のため? 苦痛を与えたかったならば、無駄だったね。だってこんなものは何の痛みももたらさないもの。

 魂に刻まれるような痛みを君は、知っているか。

 何度生まれ変わっても癒えないような傷を、君は知っているか。

 僕は、知っているかな? 君、どう思う?

 この人生は、苦渋に満ちたものだったのだろうか。もう、痛みに慣れすぎてしまってね。自分では判断できないよ。

 ただ、面白いことにさ。一番に頭へ浮かぶのは、彼の死に顔とか、そういうものではなくて、親にばれたあの日の空の色なんだよね。どうしてかな。

 狂ってる? 何故?

 だいたい、狂うとは何を指して言っているの。その定義は?

 もしも僕が本当に狂っているのだとしたら、世の人の大半は狂っているよ。人は、狂っているから生きておられるんじゃあないか。

 ほら、そうそう。こっちにおいで。あ、その前にグラスへ水を――ああうるさい。どうしてそれ、床に叩きつける……そう。そっち、選んだの。

 いいけれど。

 ほら、僕の迷路へ入っておいで。

 わかるかな。

 頚動脈は、のどの横にあるからね。




END
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