あれから時折電話が来るようになった。夜の時もあれば、朝の時もあり時間帯はバラバラだ。練習やトレーニングもあるはずだ。それなのに頻度が多すぎて、暇なのかと思ってしまう。
『おはよーさん』
「おはようございます」
『なー、いつまで敬語なん?いつ名前で呼んでくれるん?』
「……宮選手」
『ちょ!何でそこチョイスすんの?!宮さんならまだ分かる!何でやの!』
「……朝から元気ですね」
『話逸らしてもあかん!絶対に侑て呼んでもらうで!』
「侑さん」
『ウソやん。普通に言いよった』
初めは電話が鳴る度に嫌悪感を抱いていたが、彼の人懐っこい雰囲気と関西弁に最近は心地良さを感じている。素の自分で居れるという事が凄く楽なのだ。
「トレーニングはいいんですか?」
『まだ大丈夫。次は敬語ナシにしよ!俺らタメやで』
「……えっ?!同じ歳?!」
『ウソやん。上やと思っとったん?』
「はい」
『酷いわー。そんな老けとる?あ、サムか!アイツが老けとんのか!』
「一卵性だから同じ顔ですよね?」
『そやねんっっ!』
「朝からご機嫌ですね」
『そんなん決まっとるやんか。藍ちゃんの声、聞いてるからやで?』
顔が熱くなるのが自分でも分かる。何でこの人は恥ずかしいセリフを平然と言えるのだろう。羞恥心はあるのだろうか。
「そろそろ切りますよ」
『リアクションないんかい!』
まだ何か叫んでいたが気にせず電話を切った。朝食を済ませて支度をし家を出る頃に、一通のメッセージが届く。
- お互いがんばろーな -
メッセージを読んで、ふと思う。きっと、彼も女性にモテてきたのだろうな。文字を打つ代わりに、変なスタンプを送りこの小さな胸の高鳴りに気付かないようにしていた。
「おつかれ」
「お疲れ様です」
「藍ちゃん焼き鳥好き?」
「好きです」
「そうやと思った!ムスビイで前に行ったとこなんやけど、個室やし丁度ええなって」
「この近くなんですか?」
「んー、あの辺」
「…場所ちゃんと分かってます?」
「大丈夫大丈夫!」
心配は無用だったようで、数分後にお店に到着し中に入ると奥の個室に案内された。そこそこお客さんは入っている。
「藍ちゃん何飲む?」
「レモンサワーで」
「ほな、俺は生にしよ」
注文した飲み物が届くと軽く乾杯をした。グビグビと生ビールを飲んだ彼は、真っ直ぐ私を見てこう言い放った。
「いつになったら敬語止めるん?」
「……癖です」
「今から敬語ナシな」
「え?」
「敬語使おたら、ちゅーすんで」
「はぁ?!」
声大き過ぎやでと笑う彼を軽く睨み、黙ってメニューを開く。この人、絶対私で遊んでるに違いない。
「……私で遊ばないで」
「藍ちゃん可愛いんやもん」
「どこが」
「そういうとこ」
「………近い」
「近づいてんねん」
「なんで?」
「近くにいたいから?」
何故、質問を質問で返すのよ。と、心の中でツッコミを入れ手に持っていたメニューで近付いてくる彼との間に壁を作った。冷たいと非難されたが、無視だ無視。お通しを持って来てくれた店員さんに適当に串などを注文していると、彼は最初に座っていた席に戻っていた。