「禰豆子さんは今、極めて稀で特殊な状態です」
二年間もの間眠り続けていた禰豆子は眠っている間に体が変化している。長い間人や獣の血肉を喰らわなければ、間違いなく凶暴化しているのだと珠世さんは言った。
「驚くべきことに、禰豆子さんにはその症状が無い。この奇跡は今後の鍵となるでしょう」
「禰豆子…」
「もう一つの願いは苛酷なものになります。鬼舞辻の血が濃い鬼とは即ち、より近い強さを持つ鬼ということです」
「鬼舞辻に近い鬼」
「そのような鬼から血を奪るのは容易ではありません。それでも、あなた方はこの願いを聞いてくださいますか?」
「それ以外に道が無ければ、俺は…俺たちは、やります」
「はい」
たくさんの鬼の血を調べ、人に戻す薬が完成すれば禰豆子だけではなくて、もっともっとたくさんの鬼や人を助けられる。私達のような思いをする人達がいなくなるんだ。
「もっとたくさんの人が助かりますよね?」
「……そうね」
「まずい!ふせろ!!」
愈史郎さんの声と同時に、屋敷が襲撃された。丸い…あれは、鞠?鞠を投げて屋敷を破壊したの?
「キャハハ!見つけた見つけた」
「誰!?」
女の鬼から投げられた鞠は地面に当たり、跳ねて屋敷がどんどん壊される。兄は禰豆子と私を守り、愈史郎さんは珠世さんを守るので精一杯だった。そして、鞠は愈史郎さんの頭を吹っ飛ばした。
「愈史郎さん!!!」
「…禰豆子!奥で眠っている女の人を外の安全な所へ運んでくれ!」
「む」
「キャハハッ!一人殺した」
今までの鬼とは匂いが違う。鬼舞辻の血が濃いのだろうか。日輪刀を構え珠世さん達の前に兄と共に立つ。鬼は兄を見て不敵に笑っていた。
「耳に飾りをつけた鬼狩りはお前じゃのう」
「珠世さん!身を隠せるところまで下がってください」
「炭治郎さん、私たちのことは気にせず戦ってください。守っていただかなくて大丈夫です。鬼ですから」
鬼の投げる鞠はよけたとしても曲がるのだ。兄は斜めから突いて鞠の威力を和らげたが、日輪刀に突き刺さったまま兄にぶつかった。
「動いた!?でも、なんか不自然だ…」
「一露葉!鞠に気をつけろ!」
「貴女と二人で過ごす時を邪魔する者が俺は大嫌いだ!許せない!!」
鞠の攻撃の不自然さに気付き注意しながら目で追っていると、不意に愈史郎さんの怒る声が聞こえた。良かった。再生してる。
「十二鬼月である私に殺されることを光栄に思うがいい」
「十二鬼月?」
「鬼舞辻直属の配下です」
「遊び続けよう。朝になるまで、命尽きるまで」
十二鬼月だと言う鞠を持つ鬼の腕が六本に増えた。二つだった鞠も六つに増え攻撃の威力が増したのだが、やはり狙いは兄のようだ。私の所よりも兄にばかり鞠が集まっている。血の匂いは二種類ある。姿は見えないけれど、鬼は二人いる。
「もう一人は何処に」
「おい、間抜けの鬼狩り!矢印を見れば方向がわかるんだよ!矢印をよけろ!」
「矢印?!」
「俺の視覚を貸してやる」
愈史郎さんが投げた紙が額に付くと先刻までは視えていなかった矢印が現れた。そうか、この矢印で鞠の軌道を変えていたのね。兄の指示で禰豆子が木の上にいる鬼の所へ向かう。そして、私達は鞠をよけながら鬼の腕を斬った。