「戻りました」
「お帰りなさい」
「あの、大丈夫でしたか?」
「お任せしてしまいすみません」
「この方は大丈夫ですよ。ご主人は気の毒ですが、拘束して地下牢に」
屋敷の中の診察室へと向かうと、先程の奥さんが真っ青な顔をして横たわっていた。この人達は鬼の筈なのに、手当てをしていて辛く無いのだろうか。同じ事を思っていたのか、兄が二人に問うと男の子に胸を殴られていた。
「よしなさい。なぜ暴力を振るうの」
「お兄ちゃん大丈夫?」
「う、うん」
「名乗っていませんでしたね。私は珠世と申します。その子は愈史郎。仲良くしてやって下さいね」
仲良く…?それは絶対に無理だろう。凄い剣幕で兄を睨み付けているもの。
「辛くはないですよ。普通の鬼よりかなり楽かと思います。私は、私の体を随分弄っていますから。鬼舞辻の呪いも外しています」
「体を弄った?」
「人を喰らうことなく暮らしていけるようにしました」
人を喰らうことなく、少量の血を飲むだけで暮らせるように自分自身の体を変えたと珠世さんは話してくれた。だから二人からは鬼特有の異臭がしないのだ。
「この子は私が鬼にしました」
「えっ!?」
「でも、えっ?」
「そうですね。鬼舞辻以外は鬼を増やすことが出来ないとされている。それは概ね正しいです」
「それならどうして?」
「二百年以上かかって鬼に出来たのは、愈史郎ただ一人ですから」
「二百年以上かかって、鬼に出来たのは愈史郎ただ一人ですから?!珠世さんは何歳ですか!?」
「お兄ちゃん!」
「女性に歳を聞くな!無礼者!!」
悪気が無いことは分かっているけれど、愈史郎さんの言う通りだ。幾ら鬼だとしても女性に歳を聞くのはダメだよ、お兄ちゃん。
「愈史郎!次にその子を殴ったら許しませんよ」
「はい!」
「今のは兄が悪いですから」
「一つ、誤解しないでほしいのですが…、私は鬼を増やそうとはしていません」
不治の病や怪我を負い余命が幾許もない人達に、鬼となるという事を問い処置をするそうだ。そう話す珠世さんからは嘘偽りのない匂いがする。この二人は信用できると感じ、兄は禰豆子の事を話した。
「人に戻す方法はありますか?」
「鬼を人に戻す方法はあります」
「本当ですか!?」
鬼となってしまった人を元の人へと戻す方法。今の時点ではないが、珠世さんは必ず治療法を確立させたいと言ってくれた。その眼差しはとても強くて、美しかった。愈史郎さんが虜になるのも分かる気がする。
「治療薬を作るためには、たくさんの鬼の血を調べる必要があります。あなた方にお願いしたいことは二つ」
一つは、禰豆子の血を調べさせて欲しい事。そして、もう一つは鬼舞辻の血が濃い鬼から血を採ってきて欲しいという事だった。