珠世さん達はこの浅草を去るそうだ。鬼舞辻にこの地にいると知られてしまったから、身を隠さなければ危険な状況である。
「炭治郎さん」
「はい」
「禰豆子さんは私たちがお預かりしましょうか」
「え」
「絶対に安全とは言いきれませんが、戦いの場に連れて行くよりは危険が少ないかと」
うわ、愈史郎さんが物凄く嫌そうだ。確かにそうだ。珠世さんの言う通り、このまま一緒に連れて行くよりも預けていた方が禰豆子のためにもなるかもしれない。多分、兄も同じ事を考えているのだろう。俯く兄を見ていると、禰豆子がギュッと私達の手を握った。
「ありがとうございます」
「でも、俺たちは一緒に行きます。離れ離れにはなりません。もう二度と」
「分かりました。では、武運長久を祈ります」
もう日が差しているのもあり、箱を探そうとした瞬間に愈史郎さんは禰豆子を美人だと言った。その言葉を聞いた兄は満面の笑みを浮かべていたのだった。
「お兄ちゃん大丈夫?」
「うん」
「禰豆子は私が背負うよ?」
「大丈夫だ。一露葉は平気か?」
「うん」
「そうか、良かった」
屋敷を出る前に珠世さんに手当てをしてもらったが、完治はしていない。相当痛いはず。兄の体を労りながら少しゆっくり歩いていると、二匹の鴉が同時に司令を出した。
「南南東ー!次ノォ場所ハァ、南南東ー!」
「次ハ北北西ー!鬼ノォ噂アリ!」
「……え?」
「分かったから、同時に言わないでくれ」
改めて一匹ずつ話してもらった。すると、兄は南南東へ。そして、私は真逆の北北西のようだ。兄の背負う箱からカリカリと爪の音が聞こえる。禰豆子だ。寂しがっているのだろうか。
「大丈夫。またすぐ会えるよ」
「一露葉、気を付けるんだぞ」
「それはお兄ちゃんもね」
二人と分かれ、私は真逆の方角である北北西の町を目指した。北北西の町では夜な夜な不気味な声が鳴り響き、余所者が消えるそうだ。
「余所者ってことは、町の住人は無事ってことよね」
「隊士モ戻ラナイ」
「珠世さんの言っていた、十二鬼月なのかな」
北北西の町に着くまでに藤の花の家紋の家があり、そこで一日休息を取るように命じられた。藤の花の家紋の家は鬼狩りである鬼殺隊に命を救われた一族であり、無償で尽くしてくれるそうだ。
「あのー、すみません」
「鬼狩り様で御座いますね」
藤の花の家紋の家に着いたのは、夕刻だった。部屋に案内され美味しい食事や湯浴みをし、しっかりと身体を休ませていた。兄は、禰豆子は大丈夫だろうか。怪我が悪化していないだろうか。そんな事を考えていると、何処からかとてつも無く大きな声が聞こえてきた。
「何!?」
「炎柱ダ」
「炎柱?」
鴉の話によると、柱というのは鬼殺隊を支える九人の隊士だそうだ。恐る恐る声のする方へ行ってみると、とても暖かく強い匂いがした。