攫った人たちの安否を確認するも、鬼は歯軋りをしたまま地面に潜ってしまった。床を水のように出来る術なのだろう。潜っていても匂いは消えていないようだ。
「この人を抱えて傍に立っていてください!俺の間合いの内側なら守れるので!」
兄が技を繰り出そうと刀を構えると地面から三人の鬼が現れる。途中で型を変えたのもあり傷は浅く三人とも地面に潜ってしまった。
「三人とも同じ匂いがする」
「鬼は群れないから、一人が分裂したんだ!」
「お兄ちゃん!後ろ!」
「−水の呼吸、弍ノ型 水車」
二人を守りながらじゃ思い切り刀も振れないから、深追いできず兄は二人の元へ急いで戻る。すると、歯軋りする鬼とは別の鬼が地面から現れ兄に向かって邪魔をするなと怒っている。十六になっている娘は刻一刻と味が落ちる、と。
「冷静になれ俺よ。まぁ、いいさ。こんな夜があっても。この町では随分十六の娘を喰ったからな。どれも肉付きが良く美味だった」
「俺は満足じゃないんだよ、俺よ!まだ喰いたいのだ!」
そんな鬼達の会話を聞き顔が青ざめていく男性は恐らく一昨晩に婚約者を攫われた和巳さんだろう。里子さんを返せと言う和巳さんに鬼はこれまで攫った人達のかんざしを見せる。
「この収集品の中にその娘のかんざしがあれば、喰ってるよ」
「……許せない」
兄の脚元を狙い攻撃をする鬼だが兄は刀を振るうが傷は浅く、また地面に逃げられてしまった。先刻から三人とも兄にばかり夢中のようだ。
「フウウウ。霞の呼吸、参ノ型 霞散の飛沫」
壁から出てきた鬼の攻撃を弾き兄の隣に立つが後ろからまた現れ、私たちは其々呼吸を整え技を繰り出そうとした瞬間。兄が背負っていた箱から禰豆子が鬼を蹴り飛ばす。
「…なぜ、人間の分際で鬼を連れてる」
「禰豆子…?」
箱から出てきた禰豆子はフラフラと歩き出し、涙を浮かべ立ち尽くしている和巳さんと狙われていた女性を下の子達を慰めるように撫でている。そういえば、鱗滝さんが禰豆子が眠っている間に『"人間は皆お前の家族だ。人間を守れ。鬼は敵だ。人を傷つける鬼を許すな"』と暗示をかけたと言っていた。
「禰豆子!深追いするな!!」
「こっちにおいで」
禰豆子は今、鬼だ。必ずしも私達が守ってあげなくちゃいけない程、弱いわけではない。現に今も鬼を蹴り飛ばしているのだ。
「お兄ちゃん、此処は私達に任せて。下をお願い」
「分かった。禰豆子、二人を守ってくれ」
「…」
そして、兄は地面に空いた穴に潜っていった。下からは二人分の匂いがする。こっちの鬼は一人のようだ。近くにいた禰豆子が物凄い力で鬼に攻撃をする。速い。禰豆子の攻撃が速くて、他の鬼のように下に潜れないんだ。
「あっ!」
「禰豆子!!」
「うぅ…」
「妹に触らないで!」
禰豆子の攻撃に慣れてきた鬼が額を引っ掻いた。痛む傷を押さえる禰豆子に向かって伸びた手を私は斬り落とした。
「お前たちは、腐った油のような匂いがする!酷い悪臭だ。一体どれだけの人を殺した!」
「女共はな!あれ以上生きていると醜く不味くなるんだよ!」
「だから、喰ったの?」
「俺たちに感謝しろ!」
普段は温厚な兄が般若のような顔で、始まりの鬼であり家族を殺した鬼である鬼舞辻無惨について問うが、その名前を聞いた瞬間に鬼はガタガタと震えている。脅されているのだろうか、鬼からは恐怖の匂いがする。
「もういい」
言えない、言えないと繰り返し震えながら叫ぶ鬼の頸を斬り崩れていく姿を眺めながら、改めて心に誓う。鬼舞辻無惨を絶対に見つけ出す、と。