07





「禰豆子は!?」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。眠ってる。血も止まってる」
「そっか、良かった」

額を切り血を流していたけど、もう止まっている。兄の姿を見た禰豆子は回復するために壁に寄りかかって眠っていた。

「禰豆子、よく頑張ったね」

眠っている禰豆子の頭を撫で鱗滝さんが造ってくれた箱の中に入れ兄が箱を背負う。後ろを向くと和巳さんが放心状態で座り込んでいた。

「和巳さん。大丈夫ですか?」
「婚約者を失って大丈夫だと思うか」
「……和巳さん」
「失っても生きていくしかないです。どんなに打ちのめされようと」
「何が分かるんだ!お前らみたいな子供に!」

胸ぐらを掴まれ怒鳴るように叫ぶ和巳さんに兄は優しく微笑んだ。きっと、和巳さんに向けて言った言葉は自分自身に向かって言っている言葉なんだと思う。愛する家族を失っても、私達は生きていくしかないのだ。どんなに心を抉られ、打ちのめされようと、前に進むしかない。

「俺たちはもう行きます。この中に、里子さんの持ち物があるといいのですが」
「お元気で」
「…すまない!酷いことを言った!どうか許してくれ!!」

鬼が蒐集したかんざしを和巳さんに渡して、私たちはこの町を後にした。私たちだけじゃない。一体、どのくらいの人を苦しめたの。鬼舞辻…絶対に許さない。

「お兄ちゃん、」
「うん」
「こんなに怒りが収まらないの初めてだ」
「俺もだ」
「次ハ東京府浅草ァ」
「へ?」
「鬼ガ潜ンデイルトノ噂アリ!!」
「え、もう行くのか?」
「行クノヨォオ!」
「ちょっと待って」
「待タァナイ!」
「待テルゥ!」
「ちょ、ちょ、待った待った!喧嘩はダメ」

兄の鎹鴉と私の鎹鴉が待つ待たないで揉め始め、私と兄がお互いの鴉を引き離し宥める。そこまで急いで向かう必要があるのだろうか、と思いながらも私たちは浅草を目指した。そして、翌翌日の夜。私たちは浅草に着いた。

「夜なのに明るい」
「建物高っ!!何あれ」
「あっち、あっち行こう」
「お兄ちゃん!屋台があるよ!」
「山かけうどんください…」

眠くてウトウトしている禰豆子を引っ張るように連れ私たちは裏通りにある屋台で一息つく事にしたのだ。この町は人が多すぎる。色んな香りが漂ってきて、めまいがする。兄も辛そうだ。椅子に座りお茶を飲もうとした瞬間、忘れもしないあの匂いがしたのだ。

「この匂い、!」

どうして浅草で?鬼が潜んでいるっていう噂は鬼舞辻の事なのだろうか。禰豆子をその場に置いたまま、私たちは鬼舞辻の匂いを追い浅草の賑やかな町の中を走った。そして、人混みの中で見つけたのだ。私たち家族の仇である鬼舞辻無惨を。兄が肩を掴んだのと同時に私も日輪刀を握りしめた。

「おとうさん、だぁれ?」
「…!」
「私に何か用ですか?随分慌てていらっしゃるようですが」
「どうしたの?」
「おかあさん」
「……うそ」

鬼舞辻は人間のふりをして、人間の小さな女の子と女性と一緒に暮らしていたのだ。この人たちは何も知らないんだろう。こいつが人を殺して、喰う鬼だということを。