08





「お知り合い?」
「いいや。困ったことに少しも、知らない子らですね」
「……」
「人違いでは、ないでしょうか?」

そんなやり取りをしていた矢先、鬼舞辻は何の罪もない人を切り付けたのだ。切られた男性が鬼となり奥さんに襲い掛かるのを止めに入るが、力が強すぎて止められない。

「ダメ!」
「一露葉、伏せろ!」

頭に被っていた襟巻きを手に巻き付け、兄は鬼化とした男性の口を押さえながら私に合図をする。

「あなた!!」
「奥さん!今は旦那さんのことより、ご自分の事を考えて下さい!!」

旦那さんは兄に任せ、私は奥さんの傷口に布をあて強く押さえながらも鬼舞辻を目で追っていた。騒ぎを起こして逃げようとしている。許せない。なんて奴なの。

「鬼舞辻無惨!俺たちはお前を逃がさない!どこへ行こうと地獄の果てまで追いかけて、必ずお前の頸に刃を振るう!絶対にお前を許さない!!」

この場を去ろうとしている鬼舞辻に向かって兄は叫んだ。私も傷口を押さえながら鬼舞辻を目で追うと、叫ぶ兄を見て目が鬼の目に変わった。何を見たの?私と兄の違いと言えば、額の痣と父から継承された耳飾りだ。

「貴様ら!何をしている!」
「ダメ!」
「拘束具を持ってきてください!」
「お願い!拘束具を持ってきて!お兄ちゃん以外は、あの人を押さえられないから!」
「正気を失ってるのか」
「少年を引き剥がせ!」
「やめて!お兄ちゃんの邪魔しないで!」
「この人に誰も殺させたくないんだ!!!」

男性から兄を離そうと警官が集まってくるのを阻止しようと駆け寄ろうとした瞬間に、不思議な香りが漂ってきて周りが見えなくなった。

「あなた方は鬼となった者にも、"人"という言葉を使ってくださるのですね。そして助けようとしている。ならば、私もあなた方を手助けしましょう」
「…なぜ?」
「あなたは…あなたの匂いは…」
「そう。私は鬼ですが医者でもあり、あの男、鬼舞辻を抹殺したいと思っている」

突如現れた二人の鬼は私たちの手助けを申し出て、鬼化した男性と噛まれた女性を連れ出してくれたのだ。そして、自分達の屋敷へ来て欲しいと。

「…何で助けてくれたんだろう」
「分からないけど、急ごう。禰豆子が心配だ」

急いで屋台まで戻ると、店主が凄い形相で怒っていた。うどんを食べずに鬼舞辻を追ってしまったせいだ。兄と二人でうどんを平げあの人たちの屋敷に向かおうとすると、禰豆子に強く引っ張られる。

「禰豆子?」
「待っててくれたんですか?俺たちは匂いを辿れるのに」
「目くらましの術をかけている場所にいるんだ。辿れるものか」
「そんな術があるんだ…」
「それより、鬼じゃないかその女は。しかも醜女だ」
「は?」
「醜女のはずないだろう!よく見てみろこの顔立ちを!」

さっきの美しい女性の鬼と一緒にいた男の子の鬼は、禰豆子に向かって醜女だと言い放った。その言葉に私と兄は違うと抗議するが、その子は全く聞く耳を持たずにスタスタと屋敷までの道のりを歩き出した。何なんだ、この子は。禰豆子の手を取り、兄は屋敷までの道中ずっと抗議し続けていた。