「北へ向カエ〜!山ヲ越エタ町デ鬼ガ出タ!現地ノ胡蝶カナエト合流セヨ」
鎹鴉からの司令により私達は山を越えた先にある町を目指した。此処からどれだけ離れているのだろうか。胸騒ぎが収まらない。柱である師範と合流という事は、その町に出た鬼は十二鬼月である可能性が高い。下弦ではなく、上弦なのかもしれない。そして、私達が町に到着したのは夜が明け始めた早朝だった。
「…師範ッ!」
「姉さん!!!!」
町に到着してすぐに感じた気配を辿ると、血まみれで横たわる師範を見つけ血の気が引いていき、手先が冷たくなっていく。
「師範!しっかりして下さい!!」
「姉さん!」
「しのぶ、一露葉ちゃん。二人共、鬼殺隊を辞めなさい」
「何を言ってるんですか?!」
「しのぶ。貴方は頑張っているけれど、本当に頑張っているけれど……多分、しのぶは……」
「姉、さん?」
「一露葉ちゃんにも、普通の女の子の幸せを手に入れて、お婆さんになるまで生きて欲しいのよ。もう…、十分だから」
「嫌だ!絶対辞めない!姉さんの仇は必ずとる!」
「私も絶対辞めません。皆んなを殺されたあの日から、とっくに覚悟を決めています!」
「言って!!どんな鬼なの!どいつにやられたの!!カナエ姉さん言ってよ!お願い!!こんなことされて、私普通になんて生きていけない!姉さん!!!」
前が見えなくなるほど涙が溢れた。頑なに口を閉ざしていた師範は、私としのぶの気迫に負けたのか鬼の特徴を話してくれた。
−頭から血をかぶったような。にこにこと屈託なく笑い、穏やかに優しく喋る鬼。そして、その鬼の使う武器は…鋭い対の扇。−
この後の事は、殆ど覚えていない。どうやって屋敷に戻ったのか。風柱様はどうしたのか。ただ、胸にぽっかりと穴が空いたようだった。
「………」
「一露葉」
「…ごめん、しのぶ。今は、一人にして」
「嫌だ。お願いよ、側にいて」
「…っ、」
他の子達に聞こえないように声を押し殺して私達は泣いた。涙が枯れるまで。そして、しのぶは師範の跡を継ぎ蝶屋敷の当主となった。
「私、柱になる」
「…しのぶならなれるよ」
「姉さんの意思を継ぐわ」
「うん」
「だから、お願い。此処から去ろうとしないで」
「……」
「一露葉。あなたはもう、家族なの」
"家族"という言葉に枯れたはずの涙が溢れた。鬼舞辻に故郷を、家族を惨殺されたあの日。私は独りぼっちなった。鬼殺隊に入り蝶屋敷で過ごしていても、家族ではないのだと言い聞かせていたのだ。
「…うんッ!」
この日、流した涙を最後に私達が泣くことはなかった。鍛錬をし、研究を続け、鬼を斬った。その二年後。しのぶが柱となり、私の階級は甲となった。