師範の意思を継ぎ、しのぶは以前よりも感情を面に出す事が少なくなり、笑顔を絶やさずにいるようになった。そんなある日、事件は起こったのだ。
「カナヲ見なかった?」
「見てないけど、いないの?」
いつも気が付けば近くで私達の真似をしている末の子が忽然と姿を消していた。鬼に攫われた?否、この屋敷に鬼が出たのなら私やしのぶが気付いてるはず。
「しのぶ様!今、鴉が!」
「……そうですか」
「カナヲが選別に?!」
あれはいつだったか…。師範との稽古中カナヲが鬼殺隊に入ると言い出した事があった。三人共反対をしカナヲに稽古をつけることも呼吸法を教えることもなかった。其れなのにあの子はどうやって呼吸法を学んだのだろうか。
「行ってしまったのなら仕方ないですね」
「帰ってくるのを待とう」
「すみません。私がちゃんと見ていれば…」
「誰のせいでもないから」
「一露葉の言う通りですよ、アオイ」
気に病むアオイを励ましつつも心の中ではカナヲの無事を祈っていた。昨夜屋敷を出て向かったのならば、少なくとも今日から十日程は帰ってこない。
「今日は久しぶりに皆んなで御飯の準備しようよ」
「え、?」
「ほらほら、そんな怖い顔しないで」
「……してません」
「してるわよ?ね?アオイもそう思うでしょ?」
「いや…」
「アオイが困っていますよ」
「しのぶが怖い顔してるから素直に言えないだけよ」
「え?いや、あの、」
「ふふ、冗談ですよ」
冗談だと言って微笑む彼女の心の中は笑ってはいないだろう。血は繋がっていなくても、此処で暮らす子達は彼女の家族なのだ。大切な可愛い妹が自分に黙って行ってしまったのだから、心配で心配で仕方がないはずだから。
「一露葉」
「ん?」
「食事の後に少しいいですか」
「うん」
朝食を終えた私達は込み入った話をするからと他の子達を遠ざけた。しのぶは緊急時以外は立ち入りを禁止した。
「それで?」
「あの子を、鬼殺隊に入れることどう思う?」
「カナヲ自身が選んだ道なら、受け入れよ」
「……危険なのよ?いつ死ぬか分からない」
「それは私達も同じじゃない。幼い頃から私達を見て、傷付いた隊士達を見てるんだもの。どれだけ危険な仕事なのかは分かってるよ」
「姉さんなら、何て言うかな」
「カナヲは運動神経も良いし、やれるんじゃないかしら〜?って、賛成するんじゃない?」
しのぶは十四で当主になり、他の子達が不安にならないように感情を押し殺すようになった。だけど、本当は人一倍心配性で自分の判断が正しいのか不安でたまらないのだ。
「ねえ、カナヲが帰ってきたら継子にしなよ」
「継子に?」
「その方が目は届くから」
「…そうね」
「しっかりしてよ?蟲柱様」
「面白がってるでしょう」
「こういう時じゃないと言えないもの」
出会った頃は衝突していた私達は長い年月を共にし、お互いを知り尽くしていた。しのぶは家族でもあり、友人でもあるのだ。その十日後、末の子のカナヲが帰って来た。